バトルロワイアル
「"プログラム"というのは我が国の防衛陸軍が防衛上の必要から行っている戦闘シミュレーションのことでーす。…先に言って置きますが、青春学園、不動峰中、山吹中、聖ルドルフ学院はもう出発しました」
坂持は相変わらずニコニコしたまま続ける。
「ちなみに出発の順番は抽選で決まったので、不公平ではありませーん」
すると、スッと氷帝サイドから手が上がった。
「ん?君は…忍足くんだったかな?なんですかぁー?」
「不公平言うんやったら、跡部もやろ?腕、撃たれてるんやで?メッチャ不公平やん」
すると坂持はうーんと少し考えてから言った。
「面白いこと言うなぁ、忍足。じゃ、さ。跡部くん"殺して"公平にするか?」
「!?」
思いも寄らない坂持の返答に、本人の跡部だけでなく忍足、その他全員に緊張が走った。
何より妹のユキは、頭をハンマーで殴られたような衝撃を感じた。
「や…いや…やめて…!」
真っ青な顔で震えた声でそう呟いた。
それを見て忍足はあくまでポーカーフェイスを装ったまま、ヒラヒラと手を振った。
「冗談や、冗談。そない本気にせんといてなぁ」
内心は心臓が止まりそうなくらいドキドキしていたが、坂持はそうかーと言ってまた話を始めた。
「それじゃルールを説明しまーす」
全員が未だ理解しきれていなかったが、そんなことお構いなしに坂持は続けた。
「基本的に反則はありませーん。さっきも言った通り、お互い殺し合ってくれればいいだけです。最後に残った"二人"だけは、家に帰れます。ですが期日はあります。6日です。6日の夜0時。それから…」
そう言って坂持は自分の首を示した。
「君達の"首に付いてるそれ"は、我が国のハイテク技術を結集して作った物です」
「!?」
ユキはそこで初めて自分の首に何かあることに気づいた。
全く違和感がないが、触れた感じでは固い物体のようだ。
ふと隣に目をやれば、同じように赤也もビックリして"首輪"を外そうとしていた。
「その首輪には発信機が内蔵されてますのでー、君達の位置と生死が分校にあるコンピューターでわかりまーす。24時間に渡って一人も死者が出ない場合、もしくは6日を過ぎても生存者が3人以上いた場合は…全員の首輪が爆発します」
「!?」
皆が目を見開き言葉を失う。
「あー無理やり外そうとしても爆発しますからー諦めて下さーい」
その言葉に首輪をいじくっていた赤也は、慌てて手を離した。
「それから時間ごとに増えていく禁止エリアに入った場合も爆発しまーす。禁止エリアと死亡者の放送は午前、午後の0時、6時です。1日4回なー」
坂持はホワイトボードに書いてトンっと叩いた。
「さて、これから一人ずつここを出てもらうんですがー、それぞれ出発する前に"ディパック"を渡しまーす」
そう言った時、先ほど出て行った迷彩服の男二人がビニール袋を持って戻って来た。
ビニール袋には黒いリュックがたくさん入っている。
「ディパックの中には多少の食料と水、武器が入ってます。武器はランダムですからー、"アタリ"もあれば"ハズレ"もありまーす。ああ、ちなみにここは島でーす。周囲が6キロくらいの。住民の人達には出て行ってもらったので、誰もいませーん」
そう言ってから坂持はまたホワイトボードに何か書き始めた。
どうやら島の地図らしい。
その地図の中央にX印を書いた後、マジックの柄でそのX印をとんとんと叩いた。
「ここはこの島の分校です。このXがそのだいたいの位置です。先生はずっとここにいまーす。ざっとした地図ですけど、ディパック内にある地図はこういう感じでーす」
そこでふぅ…と一息つき、坂持はマジックをしまった。
「うーん、これくらいかな?…と、まだ一つあった。今回のプログラムには"特待生"が二人いまーす」
坂持の言葉に全員が眉を寄せる。
「え〜この中にいるかどうかは秘密ですけど、特待生は必ず二人います。特待生はプログラムについて事前に説明を受けてましてー、武器とは別に"防具"も与えられまーす。その代わり特待生にはある"条件"がかせられまーす」
それを聞いて氷帝2年の日吉が「条件…?」とわずかに呟いた。
「この条件は色々ありますがー、特待生はその条件をクリアしない限り、たとえ生き残ったとしても失格になりまーす。当然失格となった場合は首輪が爆発します」
「!」
再び全員の体に緊張が走る。
「さーてそれじゃあ一人ずつ、えー2分間隔で出発してもらいまーす。ここを出て右に曲がりまっすぐ行けば出口があります。ちなみにこの分校は、全員が出発した2分後に禁止エリアになりまーす」
そして坂持は笑みを深くし、氷帝サイドを見た。
「はい、じゃあ抽選の結果で氷帝学園の人達から出発しまーす。氷帝学園、部長・跡部景吾くん」
「!?」
その名前にユキはビクッと体を震わせた。
「……。」
跡部は無言で…だが目だけはずっと坂持を睨みつけたまま、自分の荷物を持ちディパックを受け取った。
出口へと歩いて行くとき、チラッと妹の姿が目に入った。
「っ…お兄ちゃん…!」
今にも泣きそうな顔をしているユキに、跡部はフッと笑い、ポンッとユキの頭に手を置いた。
それだけで迷彩服の男が銃を上げたが、跡部は気にせず、ただどこか切なげな微笑を浮かべ、一人闇に消えて行った…
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