姿見えぬ襲撃者-assassin-

民家で室町達と別れて西へ向かったユキと千石は、崖になっているEー3を回り込むようにしてD−2にある海岸沿いの道を歩いていた。


無論、どこに襲撃者が潜んでいるかわからないので、人目につきやすい場所は避けて、草むらの中を移動していた。


かすかに漂ってくる海の匂いが少しだけ緊張を和らげてくれるが、油断した瞬間に襲われるのではないかと常に不安が付き纏う。


「少し暗くなってきたね」


草むらの中を移動しながらユキが呟くように言った。


時刻はまだ15時を少し過ぎた頃なのだが、太陽は灰色の雲に覆われ薄暗くなってきている。


こんな状況では天気予報を確認することもできないが、一雨来そうな雰囲気だ。


やはりもうしばらくあの民家にいた方がよかったかもしれないと少し後悔しながら千石は地図を広げて現在地を確認した。


「うーん…たぶんもうD−2かE−2くらいに入ってると思うんだけど…目印がないからはっきりとはわからないな」


「この辺は建物もないみたいだしね」


「移動に掛かった時間からして…たぶん一つのエリアを移動するのに2時間くらい掛かるのかな?」


「うん…どうしよっか。もう少し移動してみる?」


千石はうーんと唸ってから、辺りを見回した。


「地図じゃもう少し行けば竹林があるみたいだけど、竹じゃ雨宿りできないしなぁ…」


進むべきか戻るべきか悩んだ末に、二人は結局近くの草むらでしばし休憩を取ることにした。


今もこの島のどこかで人が死んでいるかもしれないと思うと食欲などどこかに飛んでいってしまうが、食べられるときに食べておかねばいざという時に動けない。


「ふう……」


支給のパンはおせじにも美味しいとは言えない味だったが、腹が満たされたおかげか少しだけ心に余裕ができた。


こんな絶望的とも言える状況ではどうしても悪い方へ物事を考えてしまうので、一旦考えるのを止めることも大切なことだ。


きっともうすぐ兄に会える。


仲間達も無事でいる。


そう自分に言い聞かせてペットボトルの水に口をつけた瞬間、背後でがさりと音がした。


「ユキちゃん!」


千石がとっさに腕を引いてユキを自分の背中に隠しベレッタを引き抜く。


突然向けられた銃口に現れた人影は心底驚いた様子で小さな悲鳴を上げながら腰を抜かしてしまった。


しかし相方の人物は岩のようにどっしりと構えたまま、微動だにしなかった。


「か……樺地君…?」


「ウス…」


いつものように軽く頭を下げる樺地にユキは驚きながらも安心感を覚える。


そして樺地の横で腰を抜かす小さな人影に気づいて、千石が呟いた。


「檀君…?」


「うわわわ…う、撃たないで下さいぃいい!!」


地面に頭をこすりつけるように丸くなったまま頭を抱える壇を見て、千石はベレッタをポケットに戻しながら深いため息をついた。


「なんだ、檀君か〜。脅かさないでくれよ」


「え?」


そこでようやく壇は声に聞き覚えがあることに気づいて恐る恐る顔を上げた。


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