あぁわたしってなんでこんなに可愛いげがないんだろうなあって、ちらとも思わなかったわけじゃないんだけど、やっぱりどうしても、一番最初にどっかんと胸に迫ってきたのはそういう気持ちで、可愛いげのある言葉ってそれって取り繕ったもので、そんなのちがうって思ったときには可愛いげのない言葉をそのままどっかんと言い放っていた。

「どこほっつき歩いてたのこのばかレッド!!」

…後悔は、あんまりしていない。

「…ごめん」
「……」
「ごめん、***」
「…うん。それで?」
「…?」
「ごめんだけでわたしが許すと思ってるの、思ってないよね?」


そのときわたしはかなり久しぶりに、レッドが怯むのを見た。そそくさと彼の肩からおりてどこかに避難していくピカチュウにショックを受けているのを眺めているとため息をつきたくなる。いろんな意味で仕方のない人だ。そしてわたしも、心の狭い人間だ。
でもこっちは彼が行方不明だった3年を身を切られるような思いで過ごし、シロガネやまで発見された後グリーンに散々連れていけと(彼らとちがってポケモントレーナーとしての腕がないわたしは1人ではシロガネやまに行けない)直談判しては「お前らの痴話喧嘩で雪崩が起きたらどうする」とばっさり断られる日々を送ってきたのだ。戦況は確実にこちらのものである。


どうしたらいい。レッドは困り果てたように言った。ピカチュウがいない今、わたしをごまかす術がないことがそんなに心許ないのか。
そして彼の肩というのがまたおかしいことに、同情したくなるくらいしょげているのだった。最後に見た彼のそこはたしか、ポケモンバトルに勇ましく臨んでいたはずなのに、斜めに下がった肩はどちらかというと幼い頃のそれだ。


ああ、レッドは長い旅から帰ってきたんだ。

「しょうがない。…レッド、いい?」
「はい」
「1週間はわたしのそばにいること」
「はい」
「レッドのママに顔をみせること」
「はい」
「突然消えたりしないこと」
「…はい」
「よろしい」


単純なわたしは従順に頷くレッドにすっかり機嫌をよくしていた。だいじょうぶだ、ここまで言うとレッドは勝手に出ていったりしない。…許します、おかえりなさい。さも渋々譲歩したように言葉を選んだのに顔がにやけてしまって失敗した。
彼が溌剌と旅していたあの頃も今でも焦がれてやまないひとつの思い出。レッドはまた旅に出るかもしれないけれど、わたしのもとに帰ってくる気があるのならわたしも文句を言いながらそれでも待とう。


「ただいま、***」

恋しかったレッドの声が鼓膜を揺らした。




∴弱味






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(海 月様へ / 海 月様宅1万打記念)
1万打おめでとうございます* 遅れてごめんなさい…。
小学生のころから交友があるだけに恥ずかしい作品()もたくさん知っていて今となっては悲鳴ものですが、それでもくらちゃんの存在にたくさん励まされております。
これからもよろしくおねがいします(´▽`)



140510