素肌と毛布の間に手をそっと這わせて、左の乳房の上でその動きを止めた。

どっくん、どっくん。心臓が動いていて、弱々しくて、でも痛々しいほどの「生」の証拠にああ、私、生きてるんだなぁって、しみじみ。

仰向けの状態からごろりと転がってうつ伏せに。肘に力をいれて顔をあげて首をぐりんとまわしたら、ちょうどドアが開いてローが入ってきた。珍動物でも見るような視線を向けられて、これってどうしたら。


「起きたのか」
「…おはようございマス…? いまって朝? 昼? 夜?」
「夕方」



かったるそうにベッドのそばに寄ってきたあと、ガシッと頭を鷲掴みにされてそのままぼすんと沈められた。
これで相手がローでなくシャチとかなら、その雑な扱いに文句の1つや2つ言っているのだけれど、あいにく私はローには逆らえないので、そのまま黙ってされるがままに。



「…ベッドで寝とけって言ったよな?」
「うん、言われてた」
「なんで通路で倒れてた」
「みんな船にいなかったから、すこし、さみしくて。ごめんなさい」
「おれがすぐに見つけてなかったらどうなってたと思ってる」
「…死んでた」
「そういうことだ、ちゃんと自覚しろ」



ただただ従順に、その状態のまま会話を続けた。ローの視線が露になったままの肩にぐさぐさ突き刺さっているんだろう、なんだかヒリヒリして悲しい。

ずっと病院に籠りきりだった命は、ローに出会って、ローに連れ出されて、いまでは彼のものになった。
でも、潮風は体に障るからって窓すらついていない部屋では時間だってろくにわかりっこないっていうのに、ね。


と、不意にぎしりと音を立てたスプリング。かかった重みに声をあげる前に、毛布ごと抱きすくめられた。


「リユ」
「っ、なに…」
「リユ…」



耳元に熱を感じた。切なげに名前を呼ばれては、こっちが堪える。
いつもならまだしも、病み上がりの体相手に盛るつもりなのだろうかこの人は。…いや、冗談じゃない。


身の危険を感じて毛布の中に引きこもるべくもぞもぞと抵抗したら毛布をひんむかれて、離れた温もりへと伸ばした手は彼の指に絡めとられた。
そしてそのままキス。あぁ、すごく手慣れてる。



「ロー、ちょっと、待っ…!」
「死んだら、こういうこと出来なくなるからな」
「理由に、しないで」



まだ死にたくはないよ、病院から連れ出してくれたことに感謝だってしてる。決して、憎んでるわけじゃないけど。
だけどこういうことを、求めてたわけでもないの。



「ロー、ねえ、冷静になろう?」
「悪いが、見返りなしで動く人間じゃねェんだ」



乱暴な手つきで線を撫でられた。ひくりと喉が震える。

海の青は今日も見えない。






∴デジタルのなり損ない







2014.01.29