今しがた眠りに就いた彼女の柔らかい髪をふと撫でるだけで指先から甘い何かが侵食して行く様な感覚に捕われる。少なからず僕がこの部屋を後にするまでは覚めない眠りを与える白いカプセルを握るもう片手は本当に僅か、情けない事に震えが絡んでいるのを否めない。大半の時間を笑みで過ごしたこの愛しい存在が一気に手の届かない何処かへと、そんな不安は何時だって僕を取り巻いていたし気にする予定は無かったはずなのに。




「依存なんて笑えないじゃんね」




比喩するなら自分の嗜虐の一つにある菓子の様な、そこにあれば手を伸ばしてしまいたくなって遠くにあるならば取り寄せたくなる感覚。白い肌とそれの感触を重ね合わせてふっくらとした唇をゆっくりと指先でなぞる。それでも動きはしない長い睫毛は当たり前なのに僕の顔付きが歪んで行くのもわかる。何かにほだされることなどあってはならなかったし、それはこれからも続いて行くことだから決して悔やんでいるという表現を選ぶつもりはなかった。

強いて言うならば、少し前の彼女の大切な日を一緒に過ごせ無かったことが気掛かりだったけれど。僕の想像以上に強くて脆い彼女が取る態度は強気なものだとわかりきっていた、それでも一人で泣いていたことも知っていたんだよ。




「遅くなっちゃったけど、おめでとう」




寝顔に吐いた言葉が何処まで伝わってくれるかなんて知らないさ。背後の急かす声も聞き止めながら、握った指先一つ一つに懇願の口づけを落として行くことしか今は出来ないのを知りながら、少しでも長く君を瞳に映そうと足掻く僕はやはりほだされたと言えるのかも知れない。出来るならこのまま力無い君を連れ去れたら良いと思う僕と、無力な人間に価値は無いと吠えるオレが心内で張り合うものだからこうも鈍るんだ。

君と過ごした時期を遊びと呼べるものに変えるには少し深すぎて、愛と言うには僅かに届かなかった。




「ごめんね、好きだったよ」




過去に変えることが僕なりに出来ることの一つじゃないかと思うんだ。今はまだ沈められる程小さくないけれど、いずれはまた出会った時のように一マフィアとして君に触れられる様に。それさえも出来ないほどに君を思っていたと自覚する時が来たら、迎えに行こうと思ってるから。




「バイバイ、名前」




胸に巣くう感情の名を知らない僕が言えるただ一つのことと言えば、別れ。それに曖昧な再開の約束だけ。いつか君に出会ったら、過去でも現実でも素直に君へ伝えられるように。暫くの別れに一つ、思いの口づけを落として。(ああ、いっそ)











 





霞チャン、こんな奴と仲良くしてくれて本当にありがとう…!誕生日の話とかほざいてて結局あたしから霞チャンへの告白みたいになりやがったけど、受け止めてくれたら嬉しいです…
本当に本当に大好きです!^^またどこかで!

(080220 刹)