「お離し下さい。」

「もうちょっと、ね?」




伸ばした腕の中にすっぽりと納めた身体は、うん、小さい。綺麗好きの肌から香る、厭味の無い甘い匂いに引き付けられる如く、その項に口唇を落とせば身じろぐ肩が愛らしくて仕方ない。ひくりと跳ね、けれども告げた命令に逆らって逃げ出さない彼女の四肢はほんのりと薄桃色に染まるんだ。免疫の無い純な彼女は面白い程に反応を示して、僕を愉しませてくれる。




「白蘭、さま、」

「なに、名前チャン。」


「擽ったい、です。」

「僕は愉しいよ。」




悪戯に、僕より頭一つは小さい彼女の肩に頭を埋めて見れば、僕の髪が白い首筋を撫でた。反射的に身を攀って、けれども其を咎めるように深く息を詰めて堪える様子が横目に覗ける。伏せられた目元が若干赤くなって、まだかとゆっくり開かれる瞳が恐る恐ると僕を映すんだ。少し曇ったその目が、僕を引き寄せる。




「ねぇ、名前チャン。」

「は、い。」

「今の仕事、辞める気は無い?」

「第二ローザ隊、を?」

「うん、正チャンには僕が口利きするからさ。」

「何故です、私が何かミスでも、」




赤らんだ顔がゆっくりと引いて、段々と険しくなる。情けなく下がった眉が彼女の不安を露にして、腕の中で無理矢理にも反転した身体が僕を突っぱねた。
両肩を震える手で押し返しながら、泣きそうな声で懇願をするんだ。煽情的で、無償に僕の心を擽る。冗談なのに鵜呑みにする其の純粋無垢な所も不思議な程に微笑ましく思えて、白い上着を掴む指先を解かせれば行き場を無くし、懇願するかの様に僕の手を掴んで。




「ミスなんかじゃないけどね、嫌だ?」

「私は、此処に居たい、です。」

「やだなあ、此処から消えろって言ったわけじゃないでしょ。」

「しかし、ファミリーから外されては、」

「困ることでもあるの?」





言葉を詰まらせて、困ったように丸い瞳が僕を見る。知ってるんだ、彼女が僕を好いている事くらい、最初から。何時もこの瞳に僕を映していることくらい。嫌な気なんてするわけが無い、寧ろ嬉しいけれど。君から僕に何も望まないんじゃ変わらないよ。その口唇から、傍に居たいと、そう一言紡ぐだけ。なんて簡単。





「白蘭、様。」

「んー?」

「私、」

「うん。」

「御慕い、している方がいます。」

「それで?」

「離れたくありません。届かずとも、御傍に居たいのです。」




真剣な瞳が、潤みながらもそう告げた。僕の手を掴む指先は痛々しい位に入った力の所為で白く染まり、普段から冷静な表情は前を見ないくらいに、必死。どうしてこうも揺らがすのか、愛だの何だのは虚言だと、裏切るものだと信じて止まなかったのに。動いた腕は僕の意志なんか気にしてなかったんだ。零れそうな彼女の目元を掬い上げ、ふわりと染まった髪に絡み付いて小さな身体を胸に押し付け。なんて自然な一連、きっと僕が本当にしてあげたかった事だ。今まで一度たりとも彼女を正面から抱き締めずにいたのは、この想いに溺れるのを恐れていたから。もう遅いけれど。




「白蘭様、貴方を御慕いしています。」

「うん、」

「白蘭様の御傍に、姿が見える場所に居たくて、」

「うん、」

「私、今こうして下さってるだけで泣きそうな位に、貴方に焦がれて、」

「知ってるよ。」

「辞めたく、ないです。」

「うん。」

「白蘭様、」

「此処に居れば良いよ。ずっとずっと、僕の1番傍に居れば良い。」





しゃくり上げる肩を撫でて、響き出した鳴咽に思わずその唇を奪った。疑う声音は耳にしたくなくて、酸素までもを搦め捕って脱力した四肢を支える。嬉し泣きか、それとも苦しくてか、また涙を浮かべる彼女の瞳にゆっくりと唇を寄せて。何を言われようと、離す気は無いと、密に浮かべ。






愛する迄に必要な
時間などなかった

目が合った時にはもうきっとわかっていたんだ












相互様に捧げます!
霞チャン、在り来りでごめんなさい!非似な白蘭で本当ごめんなさい!愛は込めてます!←迷惑

こんな下手くそですが、これからも仲良くしてやって下さったら嬉しいです!相互ありがとう!

       071031 刹