恋は頭で考えるものではなく、無意識に身体が動くもの
心が求めて求めて
きみ不足が深刻です
誰かを好きになるって感情はとても凄いモノだと思う
だって地球上には数えきれない程の沢山の人がいるのに、選ぶのはたった一人で
そのたった一人に出逢えた私はなんて幸せなんだろう
鳴り響くチャイムが放課後の訪れを告げる
それと前後して、HRが終わったクラスから開放感に浸る声が次々と廊下へ響き渡った
私もその中に混じり、HRが長引いているのであろう彼のクラスへと足を進める
やっと、逢える・・・と弾んだ気持ちは心なしか足取りさえも軽くさせた
「Hey、名前!」
「え?」
突然後方から名前を呼ばれて、驚いて振り返る
その声が今まさに会いに行こうとしていた彼のモノだったのだから尚の事
「あれ、伊達くん。もうHR終ったの?」
よくHR長引いたりするのに今日に限って珍しい
「Ya!今ちょうどお前を迎えに行ってる最中だった。ったく、危うくすれ違っちまうところだったぜ」
苦笑いしながら、伊達くんが私との距離を一歩また一歩と縮めていく
「ごめん」
「バーカ。謝れなんて言ってねぇよ」
素早く伊達くんが私の手を引いて、二人の距離は遂に0になった
「ちょっと、伊達くん!」
伊達くんの大きな手が私の背中を押して、誰もいない階段へと導かれる
背中にひんやりとした壁の感触を感じて、思わず声をあげてしまう
「名前、違うだろ?」
「違うって何が?」
まるで逃げ道を塞ぐかのように、私の顔の隣に伊達くんの手が壁へ向かって伸ばされて、その顔には不機嫌そうに眉間のシワが寄せられていた
「伊達くんじゃねぇ・・・政宗だろ───you see?」
「っ、」
ずっと片想いだと思っていた伊達くんに告白されてから、付き合うようになってそれなりに時間が経つ
少なくとも、女性関係でよくない噂ばかりを耳にしていた伊達くんの彼女歴の中では私が断トツで最長らしい
今までだって名前で呼んで欲しいと何度も言われていたのに、いざとなると恥ずかしくて抵抗があって
だからずっと伊達くんって呼んでいたのに、今日の彼はそれを許してくれない
「名前、次、伊達くんなんて呼んでみろ・・・仕置きだからな」
「そんな!っ、無理、だよ!伊達、」
伊達くん、と呼ぼうとした唇は役割を果たす事なく、声ごと伊達くんのそれに吸い込まれていく
「ん、」
角度を変えて唇が触れ合う度にリップノイズが聞こえる
見開いたままだった自分の瞳に、伊達くんの閉じられた瞼が映った
「言ったろ?次呼んだら仕置きだって・・・わかったら目ェ閉じろよ」
うっすらと伊達くんの瞼が、私の様子を伺うように開けられる
至近距離で視線が交わって、顔に熱が集中していく
反射的に目を閉じて、無意識に伊達くんの腕にしがみつくと、伊達くんの手が私の腰を更に引き寄せた
「ほら、言えよ、名前」
密着したまま伊達くんが、その名前を呼ぶように促す
「だ、って」
「HA!!言い訳なら聞かねぇぜ」
恥ずかしくてしょうがないのに、気付かない振りをする彼はなんて意地悪なんだろう
「っ、政、宗」
「Ah?聞こえねェな」
「政宗」
泣きたいくらいに恥ずかしくて、その広く逞しい胸に顔を埋めると、満足そうに声が返って来た
「Okey、上出来だ」
(なんて、嬉しそうな声を出すの・・・恥ずかしくて滅多に言えないけど・・・ねぇ大好きだよ)
(不足していたものが、満たされていく感覚。名前、お前が呼ぶだけでオレの名前がこんなにも響くなんてな)
Title:確かに恋だった
END
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