体温が上昇したのは、どちらの熱の影響か
聞こえる脈打つ心音は、どちらの物だったのか





お前きなんだ
お前きになれ
(暴君上等だろ?)





コートは俺が支配する領域
だからお前の心も支配させろって、そう思うのはお前が言うように、俺が横暴なだけか、それとも・・・


流れる沈黙
開け放たれた体育館の外の景色は黒一色で、夜を告げる


沈黙を破るように、先に口を開いたのは俺の方



「名前、何か言えよ」



沈黙に耐え兼ねて口を開いたのは良いものの、そう告げてから自分失態に気付く


あ、やっぱ・・・嫌いとか言われたら普通に死んじまいそうだから、好き以外は無しの方で・・・、だなんて俺らしくない考えが浮かんだ


後ろから抱きしめるこの態勢は、俺の顔が向こうから見えなくて好都合だったものの、


その半面、俺からも名前の顔が見えないから名前がどんな顔をして、どんな反応をその胸に秘めているのかがわからなくて



「健司は・・・何で、そうなの?」



呟かれた言葉は、今にも消えそうな程に小さく、そして震えていた



「何が?」



服越しに伝わる熱が、どちらかの体温を上昇させているような感覚の中、発した言葉はコートに落ちて消える



「何時も私の意見何か聞いてくれなくて、自分のやりたい放題・・・からかってるだけなら止めてよ」



私の気持ちはどうなるの?、って、続けられた名前の声には何時ものような明るさがなかった


(からかう?ふざけんな・・・お前は、今までの俺の努力を"からかう"だなんて言葉で片付けんのかよ)



「・・・からかってなんかねぇし」

「嘘・・・」

「嘘ついてどうすんだよ」



信じようとしないその身体を包む腕に、力を込める
信じられないっつーなら信じさせるまでだ



「好きだ、って事に理由がいんのか」



自分でも不機嫌さを隠さない声色だったと思う



「それは、」



現に言葉を探しながら答えようとする名前は、困ったように肩を震わせた



「面倒臭せぇけど、・・・そんなに理由が欲しいならやる」

「健、司?」

「俺がお前を好きなんだ、お前も俺を好きになれ」



何時ものように命令するのは簡単だった


ただ、何時もと違ったのはそこに込めた想いが、俺らしからぬ祈るような気持ちだったって事


返事を待つ間が酷く長く感じる
空間だけが静寂を守り、心音だけが煩いように思えた


それは俺の心音か、それとも名前の心音か



「健司の馬、鹿」



脈打つ音が聞こえなくなったのは、名前が声を発してから───


それは決して良い意味の言葉じゃねぇけど、まわした俺の腕にゆっくりと添えられた名前の指先から、熱が伝わって全身を駆け巡る



「名前、馬鹿って何だよ」

「だって、暴君健司はこんな時まで、健在なんだね」



名前の肩に顎を乗せて、その声に耳を向ければ、僅かに笑った気がした



「馬鹿はお前だっつーの・・・俺が暴君になんのは好きな奴の前だけだろ?」



(どうでも良い奴に、素を晒すような馬鹿なマネするかよ。幼なじみとして近くに居すぎたせいで、わかんなかったのか)



「何それ・・・素直に喜んで良いの?」

「勿論、良い意味で、だっつーの」

「・・・じゃあ、きっと私も好きです」



その言葉に思わず腕を引いて、態勢を向き合う形に変えれば、健司見るとドキドキするようになったんだよね、って告げる名前に、ニヤつきそうになった



「当たり前だな。こんな良い男を好きにならない奴なんていねぇし」

「何、その自信」



そう笑う名前は満更でもなくて、頬に手を添えて唇を押し付ける


繰り返すその動作の中で、薄く目を開けて見た名前の顔は幸せそうだった


(やっと捕まえた・・・もう一生放してなんかやんねぇし)


Title:確かに恋だった


END