人は普通、過去には戻れないから、お互いが出逢うまでの事なんてわからない
それでも、人は過去を知りたがる




写真
(未来を一枚激写する)





「ねぇ白蘭、お願いがあるんだけど・・・」



特に何もないある日の事
唐突と言えば唐突に、私は恐る恐る隣に座る白蘭に向かって口を開いた



「ん?名前が僕にお願いだなんて珍しいね」



(言われてみれば確かにそうかも)


それでも、良いよ、と笑う白蘭の顔は機嫌の良さを表していて、私の髪を撫でる手は止まらない


思わず、その感触に目を細めながら再び口を開く



「あのね───」



告げた瞬間、白蘭が驚いた顔をしたように見えて



「駄目?」



突然、黙り込んだ白蘭にもう一度そう尋ねると、白蘭は少し考えた後、意地悪そうに笑った



「そうだねー、じゃあ先に名前が見せてくれたら考えてあげるよ」

「う・・・」



逆に交換条件を出されて思わず言葉に詰まる


(やっぱり簡単に叶う願いじゃなかったかな)


好奇心に押されるように、白蘭の(あるかわからない)昔の写真が見たいと、頼んでみたのは良かったけれど、返って来た言葉は全くもって予想外で



「わ、わかった」



咄嗟に飲み込んだ交換条件


でも、私の写真には殆どと言って良いくらい、お兄ちゃんが写ってたような・・・



◆◇◆◇◆



「・・・まぁ、何となく予想はしてたけどね」

「・・・ごめん」



溜め息をつきながら、アルバムをめくる白蘭の指先


名前は可愛いのに隣がホント邪魔だなー、と紡ぐ白蘭の唇



「お兄ちゃん、私のアルバム知らない?」

「おや?名前、アルバムだなんてどうするんです?クフフ、もしかして、僕との愛の軌跡を振り返るつもりですか?」

「いや、そういう訳じゃないけど・・・自分のが見つからなくて」

「見当たらないのですか?なら良いですよ、僕のコレクションのうち一冊を貸して差し上げます」

「あ、ありがとう」



突っ込み所満載の会話をして、上機嫌のお兄ちゃんから借りたアルバム


その時は何も思わなかったけど、一々、写真の下にお兄ちゃんのコメントは書いてあるし、恥ずかしい事この上ない


(今日は名前と愛を語り合いました・・・って何)



「へー・・・名前、骸君と愛を語り合ったんだ?」



その私の見ていた場所に白蘭も気が付いたらしく、尋ねて来た


ただ、違った事は不機嫌さを隠そうともしていないその声



「いや、それは子供の時の話だし覚えてな、」



弁解しようと口を開けば、白蘭の指先が私の唇を塞ぎ、言葉を遮る


そのままその場を支配する沈黙の中で、


自身の手に絡まる白蘭の手
首筋に触れる指先
最後に唇へと落とされた白蘭の唇



「骸君とこんな事までしちゃったんだ?」

「え、」



あまりに突然の事に唖然として、いきなり告げられた一言に、一瞬、白蘭の言っている事が理解出来なかった


でもどうなのか、と尋ねて来る白蘭の瞳は、彼の真剣さを表していて慌てて我に返る



「す、するわけない!」

「ホントに?」

「あ、当たり前だよ」

「そう」



全力で白蘭の言葉を否定すれば、白蘭の瞳が愉快そうに細められて、


白蘭の声が耳元で、知ってる、と紡ぐ



「じゃあ、新しい未来でも撮っとく?」



私の言葉に機嫌を直したのか、それとも最初から演技だったのか・・・


どちらにせよ白蘭にしかわからない真相


でも白蘭の笑う顔とその手に持たれたデジカメに、自然と笑みが零れた



「うん!」



過去は知る事が出来なくても、未来は知ることが出来る


それは貴方が教えてくれた事



(ねぇ、白蘭の昔の写真は?)

(そんな約束したっけ?)

(・・・アレ使うしかないかな)

(ん、名前、何か言った?)

(いえ、な、何も)


END