久しぶりに夢を見ました
その時は夢だなんて思わなかったのだけど・・・
そこで、蓮の華に囲まれていたのは私のよく知った人でした



AMBER
ACT4:それは
あまりにも突然で





「名前」



誰かに呼ばれた気がして、目を開けた
すると視界に入ったのは、見知ったオッドアイの瞳
(白蘭でなかった事に、少しだけ驚いた自分が憎らしい)



「む、くろさん?」

「久しぶりですね、名前」



穏やかな微笑を浮かべて、私を抱きしめる骸さん



私は、この腕の感触をずっと前から知っていたような、そしてずっとこの腕を待っていたようなそんな不思議な感覚になった



「またしても僕は、名前、君を他の男に渡してしまったようですね」



私を見つめながら、少し悲しそうな顔をした骸さんを見て、胸がチクッとした
(またしてもって・・・?)


骸さんの視線は、私の胸元に付けられた無数の白蘭の紅い印に向けられていて
それに気付いて慌てて隠したけれど、あまり効果はなかった



「僕が彼に君を奪われて、今度は彼が君を違う男に奪われて、この皮肉な運命とやらは何時まで廻るんでしょうね」



まるで遠くを見つめているような瞳で、ポツリと話す骸さん


私には骸さんの言っている事が全くわからなかったけれど、


あの時は君が自分を犠牲に、僕を助けたんでしたね、と骸さんが酷く悔しそうに憎々しく漏らした声に、何も言えなくなった



「さてと・・・名残り惜しいですが、時間です。名前、僕は一日だって君を忘れた日はありませんでしたよ。・・・必ず迎えに行きますから」



待っていて下さい、と呟かれた後で近付く骸さんの顔
唇に触れた温かい物が、彼の物だと気付くのにそう時間はかからなかった


名残惜しそうに離された唇
次第に薄れていく骸さんの姿に胸が締め付けられて、声にならない声をあげた
(思い出せないけれど、こんな光景、前にもあった気がする)




◆◇◆◇◆




ガバッと勢いよく跳び起きた
震える肩に、瞳から流れる水滴
縮こまるように膝に顔を埋めて、声を殺して泣いた


骸さんの熱がまだ残っていないだろうか、と僅かな希望にも似たものを胸に秘めながら、確かに彼に触れた唇を指でなぞる



「骸さん・・・」



呟いた声は広い部屋に吸い込まれていった



勿論、その私の様子にこの男が気付かないはずがなかったのに・・・
(私は、白蘭に抱きしめられたまま寝ていたようだから)



「名前?」



寝起き独特の掠れた声
その声に思わず肩が跳ね上がる


恐る恐る振り向くと、頬杖を付きながらジッと私を見つめている白蘭の姿



「白、蘭」



じわじわと心を"恐怖"という感情が支配していく
私の呟いた言葉がどうか聞こえていませんように、と祈り続けた


でも現実はやっぱり残酷だった



「名前、"骸さん"って?」



いつの間に、起き上がったのかわからない白蘭に、後ろから隙間なく、窒息しそうな程に抱きしめられて耳元で囁かれる


自然と震え出す身体を抑える事なんて出来なかった


恐怖から再び溢れ出した涙に
骸さん、また逢えますか?
そんなちっぽけな願いを乗せて目を閉じた



(後ろは白蘭。逃げ場なんてない。・・・でも、背中から伝わる白蘭の熱が、何故か心地いいと思えるのはきっと私の勘違い)

(嫌な予感がした。名前の呟いたその名前に。"六道 骸"・・・君が僕から名前を奪えると思ったら大間違いだよ)


END