愛する人の役に立てるのならば、例えこの身が朽ちても構わないと、そう思っていたのです───貴方に言われるこの時までは




Consensuale
(果てない契約を交わす時)





私には、皆のように骸さんの為に戦えるだけの力も何もなくて
何時も骸さんに守られてばかりで


もしかしたら私は骸さんにとって唯のお荷物にすぎないんじゃないかって、ある日突然そんな不安にかられてしまった



「・・・骸さん」



遠慮がちに彼のいる部屋のドアを開けて、その名前を呼ぶ



「おや?名前、どうしました?」



骸さんは、何時ものように優しく微笑んでくれて、この不安のせいか切ない気持ちになったけれど、やっぱり嬉しかった


おいで、と私の腕を引き寄せて、後ろから抱きしめる骸さん


私は必然的にソファーに座ったままの骸さんの、その足の間に座る態勢になって、骸さんは私の肩に自身の顎を置く



「・・・今日の名前は元気がないですね。何かあったんですか?」



骸さんは私の身体に絡めていた手に少しだけ力を込めながら、そう尋ねた


優しい口調のはずなのに、何故かこの時の私には、黙秘を許さないような威圧感を含んでいるように聞こえて、私は必死に震える唇を動かす



「・・・私は、骸さんのために何が出来ますか?」



そう告げた瞬間に、骸さんの動きが一瞬止まったような気がした



「名前?」

「私は、犬ちゃん達のように骸さんの為に何か出来る訳じゃなくて、唯、無力で・・・」



改めて口にすると、愛する人のために何も出来ない自分が惨めで、じんわりと涙が滲む



「こんな私が骸さんの側にいて良いのかなって、お荷物にしか、ならないような存在なら、もう一緒にいれな、「名前」



涙のせいか、言いたい事も途切れ途切れにしか伝えられない


お荷物にしかならないのなら、もう一緒にはいられないと、そう続くはずだった言葉は骸さんの強い口調に遮られて


その口調が僅かながら怒りを含んでいるようで、思わずビクッと身体が跳ねた



「何時、僕が君をお荷物だと言いましたか?そんな扱いを何時したと言うんです?」

「だ、だって、骸さんは他の皆とは"契約"を結んでいるのに、私とだけ、」


(私とだけ契約してくれないのは、契約するだけの価値がないからなんでしょう?)


(こんな戦闘も満足に出来ないような身体と契約したって、役に立たないからなんでしょう?)


こんな事が言いたかった訳じゃないのに、一度溢れ出した感情はそう簡単には収まってくれなくて、唯、鳴咽混じりの不満だけが口からは漏れる



「・・・」



今まで何も言わずに、私の言う事を聞いていた骸さんが溜め息をついた


いよいよ持って、軽蔑されて別れを告げられるんだと思うと、ますます涙が溢れる



骸さんが私にまわしていた腕を解いた時、別れが現実味を帯びたせいか、思わずきつく目を閉じた


でも骸さんの口は別れの言葉を紡がずに、その手は私の肩に置かれて向き合う形に、強制的に体勢を変える


視線が交わった時に、見えた骸さんのオッドアイは悲しげに私の瞳に映った



「・・・君では何の役にも立ちませんよ」



はっきりと告げられて、何も言えなくなって、涙だけが比例するように頬を流れた


骸さんは、その雫を指で掬いながら、更に続ける
でも続いた言葉は、私の予想外の言葉



「・・・僕には君の身体に傷を入れる事なんて、出来ませんからね」



愛する人を傷付けてまで憑依してどうするんです、と告げる彼の瞳は相変わらず悲しげで、私はまたしても何も言えなくなった



「名前」



苦しいくらいに抱きしめられて、私は骸さんの背中におずおずと手をまわしながら、それに応える



「確かに名前は戦えるような力を持ちません。でも君には君にしか出来ない事がある」

「・・・私に、しか出来ないこと?」



密着しているため、耳にかかる骸さんの吐息



「僕は君しか愛せないんです。だから名前には、僕を君無しでは生きられない身体にした責任を取る義務があるんですよ」

「っ、骸さ、ん」



知らなかった
自分がこんなにも想われていた事


知らなかった
自分がこんなにも貴方に必要とされていた事



骸さんは骸さんなりに私を大切にしてくれていたのに、何も知らずに酷い事を言ってしまった事への罪悪感から骸さんの顔を見る事が出来なくて、抱きしめられたまま骸さんの胸に顔を埋める



「名前、顔を上げて下さい」



でも直ぐさま骸さんは、私の顎を持ち上げて、視線を強引に交えた
そしてそれから彼は言葉を続ける



「名前、そんなに僕と契約したいのなら、しても良いですよ」

「え?」



突然の事に聞き返すと、骸さんは優しく笑って抱きしめたままの片腕に力を込めた



「永遠に僕の側にいると、永遠に僕だけを愛し続けると、今ここで誓って貰えますか?」



これは君にしか出来ない"契約"でしょう?、と告げた骸さんに、不安でも悲しみでもない嬉し涙が零れて



「それでは、"契約"のキスでもしましょうか」



私の零れる涙を止めるかの様に、優しく頬を撫でてから重ねられた骸さんの唇に、私も精一杯の想いを込めて応えた



(骸さん、貴方だけを永遠に愛しています)

(名前を傷付ける事なんて出来はしませんよ・・・君は僕が愛した唯一の人ですから)


END




TO:ゆきみさん!
フリリクご協力ありがとうございました!
サンバってる骸さんに邪魔されてしまい、リクエストに添えられたかどうか(ガタブル)
ゆきみさんのみ、煮るなり焼くなり苦情なりどうぞ!