いつからだったか
そう昔の事ではないのに思い出せない私がいる





言えないの、ねぇ、
気付いてほしかった
(これは紛れもない愛
なんだって)





「名前チャン、何してるの?」



机に向かって報告書を見る事に飽きたのか、不思議そうに白蘭様が窓際の私の所に寄って来た



「・・・白蘭様、空を見ていたのです。今日は雨が降りそうだなぁと思いまして」

「ふーん。名前チャンは雨が嫌い?」



私の答えに、いつものように何を考えているのかわからないような顔で、白蘭様が質問を返す


「いいえ、好きでも嫌いでもありません」



今、思えば私が白蘭様に連れて来られた日は雨の日で、その日から私にとって自由という言葉は無縁の物となった


何故私がミルフィオーレファミリーのアジトに連れて来られたのか、なんてわからない


私は弱小マフィアの下っ端で、白蘭様に逢ったのはたったの一度っきり


そんな私を連れて来た張本人は、私を見るなり、こう言った


「今日から名前チャンは僕の物ね」、と


それから私の足には白蘭様の手によって足枷が付けられた


その時の


「これで君はもう逃げられないよ」


と言って笑った白蘭様の綺麗な顔が、今も焼き付いて離れない


まるで新しい玩具を見つけた時の子供のような顔だった


その日から私の隣にはいつも白蘭様がいて、彼がいない時に私が部屋から出る事は不可能だったのだけれど、最初の頃のようにそこまで苦痛に感じないのは私が彼を愛してしまったせいなのか・・・



(玩具が主人に恋をしただなんて、何て馬鹿な話しなんだろう)



「名前チャン、お家に帰りたい?」



今までの事を少し振り返っていると、突然白蘭様に問い掛けられた


彼はよくこの質問をする
多分、白蘭様は今まで全てが思い通りになっていた人


だから、思い通りならない私が珍しくて側に置いているに違いない


だから私は決まってこう答える


「帰れるものなら」と


最初の頃は本心だったのだけれど、今は白蘭様に飽きられる事が怖くて私は毎回彼に嘘をつく


その度に白蘭様は笑う
「いい加減、自分の居場所を自覚しなよ」と言いながら


それから決まって、私の顎を自身の骨張った指で持ち上げて、私に貪るようなキスをするのだ


(どんなに貴方に触れられても、満たされないのは心が泣いているから。ねぇ、白蘭様、どうか私の気持ちに少しだけでも気付いて下さい)

(君に嫌われても、手放せないのは僕が君に依存しているから。君は一体いつになったら僕の気持ちに気付くんだい?)


Title
夜風にまたがるニルバーナ



END