白を捨て、黒に染まったこの姿は
貴方を捨て、あの人を選んだこの姿は
その大好きだった瞳にどう映るのだろうか




白日
(叶わず、敵わない)





その声を
その体温を
その手の感触を


今更になって思い出すのは、これからしようとする事への躊躇いか、それともこうなってしまった事への後悔か



「骸、」

「おや、名前どうしても行きますか?」

「何を今更・・・骸だってそのつもりだったくせに」



黒を身に纏って、私がそう告げると、骸は少しだけ悲しそうに微笑んだ


(骸がそんな顔する必要なんてない・・・貴方だって最初から私を利用するつもりだったでしょう?)


黒を身に纏った今となっては、あの人と同じ白を身に纏っていたあの日々を酷く懐かしく想う


もう、あの甘い日々は願っても戻って来る事はないけれど、後戻りは許されない



「骸、それじゃあ・・・」



骸に背を向け別れを告げると、後ろから骸の体温に包まれた


あの人の体温より少しだけ低い骸の体温



「名前、必ず僕の元へ帰って来て下さい」



耳元で囁く骸の声
あの人と違う声



「う、ん」



らしくない骸の言葉に私は嘘をついた
人生で二番目になるであろう嘘を・・・


(一番の嘘はあの人に告げたさよなら)


青年の腕を解き去っていく後ろ姿


彼女は知らない、青年の心の奥深くを


最初はあの男を倒すための手駒でしかなかったけれど、彼の心に何時しか別の感情が生まれていた事を




◆◇◆◇◆




「・・・白蘭」

「久しぶり、名前チャン」



私の愛した白は全くと言って良いほど、変わっていなかった


変わった事と言えば、私を呼ぶ呼び方くらい


当たり前と言えば当たり前で、でもそんな些細な事に痛んだ胸が、自分がどれほど白蘭を愛していたかを思い起こさせた



「・・・変わってないね」



本当に変わってない
愛していた頃のままだ
相変わらず白が彼にはよく映える



「そう?・・・まぁ、でも君は変わっちゃったね」



もう僕の隣にいた頃の君じゃないと、白蘭の細められた三白眼が物語っていて、


先に白蘭を裏切ったのは自分だと言うのに、心が悲鳴を上げた



「で、何しに来たの?」



白蘭の声が耳に届く
これも変わってない
大好きだった白蘭の声そのもの



「っ、白蘭を殺しに」



過去に捕われて、躊躇いが生まれた私は、声を絞り出した



「へー」



そっか、とでも言いたげな白蘭
身構えるそぶりすら見せようとしない



「な、何で・・・」

「ん?」

「何で、抵抗、しないの?」



確かに私はかつて白蘭の恋人でもあり、そして部下だった


でも今は、反逆者であり、ただの敵にすぎない



「別に、僕を殺したいなら好きにすれば良いよ」



なのに、白蘭は変わらない顔で笑う



私を"名前"と呼んでいた頃と変わらない顔で



気付けば、ガシャン、と音がして、私の持っていた銃は、かつて二人が過ごした部屋の床に転がった



「やっぱり、無理だ、よ」



やっぱり無理だ
骸には悪いけれど、私には無理だった


今も、今でもこんなに好きな人を殺すなんて出来ない


ならば、せめて───



「白蘭、私を殺して」



骸、ごめん
貴方の所には帰れない


私は変わっていく白蘭を止める事が出来なかった


だから、白蘭を止める事が出来ればと思って骸達と手を組んだのに、


私はまだ、こんなにも白蘭を想ってる


止める事も叶わないなら
殺す事も敵わないなら


せめて最期は愛した人の手で死にたい



床に落ちた私の銃を、白蘭が拾い上げる



「名前」



白蘭は一度だけ、私の名前を呼ぶと、そのまま抱き寄せて、心臓に銃を当てた



「ありがとう」



目を閉じる前に見えた白蘭の顔は笑っていて、瞼を閉じれば頬を一筋の涙が伝う



「バイバイ、名前」



(ありがとう、白蘭。これで私はまた白に戻れた気がするよ)

(お帰り、愛しい君・・・物言わぬ屍になったその姿すら愛してるよ)



END





TO:玲姫さん!
フリリクご協力ありがとうございました!えっと、ちゃんとリクに添えてますかね(汗)悲恋になったような、なってないような・・・玲姫さんのみ、煮るなり焼くなり苦情なりお好きにどうぞ(土下座)勿論、書き直しも承ります(笑)