ひどく残酷な夢を見た
でも、それはひどく優しい夢だった




夢別れ
(砂に還る前に逢いたかった)





「っ、白蘭、」



白蘭の吐息と私の吐息とが混じり合う
何度となく、互いの体温を分け合って来たのに、今日だけは何故か特別に感じる



「名前」



白蘭がいつものように笑う
でも何故か今日だけは、その笑顔を見るのが悲しかった


白蘭の手が私の頬から首へと移動する


そして、白蘭にされるがまま、私は意識を飛ばした




◆◇◆◇◆




次に目を覚ました時、隣に白蘭の姿はなく、取り残されたような気持ちになる


それと同時に胸に感じる痛み
全身が痛んでしょうがない


よく見れば私の身体は少しずつ、霞んでいって
何、何が起こってるの?



「名前、?」



部屋のドアを開けた白蘭が、少しだけ驚いたのがわかった


その時、貴方らしくない悲しげな顔が見えたのは私の気のせいですか?


でも、でも私はわかってしまった


わかりたくなんてなかったのに
知りたくなんかなかったのに



「白蘭、お別れの時が来たみたい」



頑張って笑ったつもりだったのに、涙が溢れて、泣き笑いだなんて情けない顔になってしまった



「・・・そう、気付いたんだ」


白蘭は一度だけ目を伏せた


「うん、出来ればずっと覚めたくなかったよ」



悲しいのに、悲しくてしょうがないのに、頭の片隅では冷静な私がいる



「逝ってほしくないって言ったら?」


白蘭がそう言いながら、目を細めた


「・・・私が逝きたくないって言ったら?」

「逝かせないよ」

「っ、無理だよ」



昨日までは抱きしめあえた
昨日までは抱きあえた
昨日まではキス出来た
昨日までは触れ合えたのに


もうすぐそれも出来なくなる



「ねぇ、白蘭、一つだけお願いしても良い?」

「・・・」

「白蘭のソレちょうだい、っ、私にソレちょうだい」


消えそうな指で、指差したのは白蘭の心臓


「良いよ、名前にならあげる」


でも、彼は迷いのない瞳でそう言った


「ありがとう、貴方が私を愛してくれた心だけ持っていくよ」



ポロポロと流れる涙を拭う術はない
私の手も消える
貴方の手が触れる事もない



「僕の心臓ごと持って行ってかまわないよ。その変わり、」



(名前の心を置いて行って。君が僕を愛した心を)


白蘭がいつものように笑わずに言ったその言葉に、いっそう涙が零れた



「白、蘭」


もう呼べなくなる大好きな人の名前を呼ぶ


「名前」



互いの顔と顔が近付く
それが私と白蘭の最後の恋物語



本当は貴方は気付いていたんだ
私がこの世にいない事
肉体を失い、それでも砂に還る前に貴方に逢いたかった事


でも最後に触れ合えたのは、神様がくれた残酷だけど、優しい夢だったのかもしれない


(白蘭、ずっとずっと傍にいたかったよ・・・今はただただ、次に貴方に逢える日がくることを祈るばかり)

(名前、そう呟いても笑う君はもういない
唯一逢えるのが夢と記憶の中

こんな残酷な腐りきった世界に君がいない
どうして、名前がいなくなった日に世界は滅びなかったんだろうね
僕の世界はもうないのに

夢で逢えても、最後は毎回別れる
名前、僕は、君になら殺されても良かったんだよ)



END