愛おしむように頬をなぞる白い指先
愛おしむように細められた眼
今更なのに、その全てが憎いくらいに愛おしい





れたに、れる
(逃さないために)





梅雨の季節は嫌い
髪はまとまらないし、濡れるし、気分は最悪


それでもこんな日に限って、合コンだなんて気乗りしないものに強制参加になってしまい、傘という雨を全て遮るには頼りないものを手に外を歩く


室内から見ると嫌いになれない雨は、外で見ると何故か、彼を思い出させた───



「名前、帰るの?」



期限付きの恋をした
遠く遠くイタリアの地で


相手の事なんてろくに知りもしなかったのに、これが最後の恋だと信じて止まなかった



「うん・・・元々そんなにこっちにいるつもりなかったから」

「そう・・・どうせ帰るなって言っても帰るんだろ?」

「うん・・・(そんな事絶対に言ってくれないくせに)」

「じゃあ、しょうがないね」


私の帰国の日がタイムリミット
引き止めて欲しい、って本心を告げる間もなく


そう言って彼の手は私から放された


それは同時に期限付きのイタリアでの恋の終わりを示していて・・・



「なんで忘れられないのかな」



日本に帰ったら、直ぐに忘れられると思った


新しい誰かを好きになって、新しい誰かに愛されて


過去の人だと懐かしむようになれると、そう思っていたのに



「何でかなぁ・・・っ、忘れられないよ、白蘭」



忘れられたら楽なのに
それを頭が忘れてくれない
それを身体が忘れてくれない


気付けば雨じゃない水滴が頬をつたって、


歩きながら泣いているだなんて、みっともないってわかっていたのに、


その声が聞こえるまで私は金縛りにあったかのように動けなかった



「名前に忘れられたら困るんだけどなぁ」

「・・・白、蘭」



背後から聞こえた声に反射的に振り向くと、そこにはずぶ濡れの白蘭の姿


髪をつたって白蘭の頬を流れる雫が綺麗過ぎて、思わず瞳を奪われる


そっか・・・雨は、稀に白蘭みたいに見えるんだ


掌に落ちた雨はただの雫で、汚れているように見えないのに、実際は大気中の汚れを沢山洗い流して


なのにその汚れを人目から隠すのが上手い


まるで感情を隠すのが上手い白蘭のようで



「名前、迎えに来たって言ったらどうする?」

「知らない・・・帰ってよ。私はこれから白蘭以外の人と幸せになるんだから」



太陽が昇れば雨は消える
そんな雨のように貴方も消えるのでしょう?



「僕がそんな事許すと思う?」



それなのにこの身体は、いとも簡単に白蘭触れられる事を許してしまう


傘が音を立てて転がって行くのが視界の端に映った


けど、それも一瞬の事で白蘭が私の頬に触れて意識を引き戻すと、軽く唇が落ちてくる



「離して、」

「そのわりには、もう二度と離すなって顔してるけど?」



悔しい、何でもかんでもお見通しで、なのにそんな嬉しそうな顔をして


そんな顔されたら───



「白蘭の、馬鹿っ」



私の為に濡れてる貴方に触れずにはいられない



(言葉と裏腹に抱きしめ合う私達を空だけが見ていた)

(名前、君が僕を忘れられるはずないんだよ)


Title:確かに恋だった


END