日本に来たというのに、何故か懐かしさを感じなくて
早く、あの人のいるイタリアに帰りたいと思ってしまった




In sorrow and in joy
うれしい時も悲しい時も





「はぁ・・・」



思わずため息


日本での任務を、無事に終えたまでは良かったのだけれど、何故か憂鬱で迎えの車を断って、久しぶりに電車と徒歩でホテルまで向かうことにした



一応、日本は私の故郷
でも、今の私には何故かその故郷が異国にしか感じない



「白蘭に会いたいなぁ・・・」



ポツリと呟いた言葉は地面に吸い込まれていく



白蘭が反対した日本での任務を内緒で遂行して、


(皆忙しそうで、他に出来そうなの私だけだったし)


でも、明日には帰れるというのに、今頃になって何故か無性に、白蘭に会いたくなった



(ホームシックならぬ白蘭シックなんだろうか・・・なんてね)



電車を降りて改札口に向かう
その途中で行き交う人々が、傘を持っている事に気が付いた
よく見れば、その傘は濡れている



「最悪・・・雨降ってるんだ」



勿論、傘を持っているはずもなく、濡れて帰るか、どこかで買うしかない



取り敢えず諦めて、改札口をくぐることにした



するとやけに、女性から注目を浴びる見慣れたシルエットが、目に入る



「・・・びゃく、らん?」


そんなはずはないのに
(だって彼は遠いイタリアのはず)


「お帰り、名前」



でも、目の前にいるのは確かに白蘭で
唖然としたまま、動けない私に一歩一歩近付いてくる



「白、蘭?どうして此処に?」



他にも言いたいことは沢山あったのに、疑問の方が勝ってしまった



「勿論、名前を迎えに来たんだよ。名前の為にイタリアからね」



そう言う白蘭があまりにもかっこよくて、私は白蘭の元に飛び込んだ



「おっと、」



何てわざとらしく言う白蘭は、片手で私を抱き留めて、そしてもう片方の手は、傘に添えられている



「っ、白蘭に傘って」



滅多に見られないような光景に思わず笑みが零れた



「名前が一度相合い傘とかいうのを、やりたいって言ってたからね」


笑われた事に、少しだけ不機嫌そうな白蘭


「覚えててくれたの?」



あんな、冗談みたいな事
いつだって白蘭は、私の本音を簡単に見抜く



「当たり前。名前の言ったことは全て覚えてるよ」



そう言いながら、白蘭は私の頬に手を添えてキスをした



「さて、そろそろ帰ろうか」



隣で口角を上げて笑った白蘭の腕に、私は返事の変わりに自身の腕を絡めた



悲しい時も、嬉しい時も、そして淋しくなって会いたくなった時も、いつも側にいてくれるのは、他でもない貴方だけ・・・



貴方がいる場所が私の故郷なんです



(名前、僕に黙って日本に来た罪は重いからね)

(え、)

(当然だよ。どれだけ僕に心配かけたと思ってるの)

(っ、ごめんなさい)

(もう一人で外には出さないからそのつもりでね)


Title
夜風にまたがるニルバーナ



END