気まぐれ、我が儘・・・そして───それは奇妙な猫と暮らし始めて知った事




Red String
ACT03:猫と人の境界線





「ねー、名前」

「え、は、はい」



ペロッと唇を舐めた後、何事もなかったかのように私を後ろから抱きしめて、ゴロゴロと猫が甘えるように私の頬に頬擦りしながら白蘭が声をかけてきた



(何なのこの体制・・・いやいや、白蘭は猫、猫、猫)



淡い恋心を抱いていたはずの人?に抱きしめられて、心臓が煩いくらいに跳ね続けるから、何とか落ち着かせようと必死に猫がじゃれているだけだと自分自身に言い聞かせる



「名前、聞いてる?」

「え、あ、何でしょう」



心臓が煩くて、話し掛けられていた事をすっかり忘れていたら、再び耳元で響く白蘭の声に意識を引き戻された



「だからお腹空いたんだけど」

「・・・えっと、何食べますか?」



・・・どうやらうちの奇妙な飼い猫?はお腹が空いたらしい


何が食べたいのかと尋ねれば、うーん、と考えるような仕種をしている



「・・・キャットフードとか食べないですよね」

「・・・」



何が好きかなんて知らないし、冗談のつもりで何気なく問い掛けると白蘭の動きが一瞬止まって───



「ひゃ!」



ギュッと苦しいくらいに抱きしめる腕が強まり、白蘭の舌が私の首筋を舐めるから思わず変な声が口から漏れた



「・・・次、そんな事言ったら」

「・・・い、言ったら?」



白蘭の目が妖しく光る


(そう言えば猫の姿の時もキャットフードを嫌がっていたような・・・)


今更ながら出会った時を振り返っていると、トンッと後ろから背中を押されて気付けばそのままベッドに突っ伏す格好になっていた


反射的に起き上がろうとするも、上から白蘭が私の身体に跨がっていて身動きが取れない



「次、そんな事を言ったら名前を食べちゃうよ?」

「っ!」



「まぁ、このまま名前を食べても良いんだけど」、と恐ろしい言葉が続いて白蘭の顔が近付いて来る



「じゃ、じゃあ何が好きなんですか?」



必死に身体を捩って仰向けになりながら、腕を精一杯突っ張って白蘭の身体を押し止めつつ苦し紛れに問い掛けた



「・・・・んー、甘いやつ?マシマロとか」



拒まれているのが気に入らないのか、少し不機嫌そうにしながらも白蘭が答える



(マシマロ・・・もしかしてマシュマロ?)



「甘いのですか、」

「うん、でも気が変わった───先にこっちを食べる事にする」



言葉の真意がわからず唖然としていると再度白蘭の目が妖しく光り、白蘭が手が邪魔だよ、と言わんばかりに私の手を退けて、再び顔を近づけて来た



「ちょ、っ」



なす術もなく、されるがままになるしかなくて、思わずきつく目を閉じると、ふいに身体の上から重さが消える


(・・・何?)


不思議に思って目を開けると、そこには最初に見た白猫の姿



「白蘭?」



少し重いけど、私の上にチョコンと乗ってる白猫
恐る恐る手を伸ばして触れるとふわふわの毛の感触


チッと舌打ちが聞こえてきそうなくらいふて腐れた顔で猫はニャアと鳴く



「やっぱり可愛い・・・!」



元々動物好きな事も手伝ってか、その可愛さに猫が実は白蘭だという事をすっかり忘れて、思わず猫の鼻先にチュッと唇を落とすと、猫は驚いたように目を少し見開いた後、嬉しそうに目を細めた



(・・・それにしても名前、猫の僕には甘くない?)

(?!白、蘭、猫の姿でも喋れて・・・)

(・・・まぁね。んー、役得なんだろうけど、こうも人間の時と扱いが違うと何か複雑だな)


END