好き、だとそう貴方が言ってくれたのはもう随分と前の事のように覚える
でも、それでも───




好き愛し境界線
(その一言をどうか、)





両想いなんてただの思い込み・・・そういう名言を残したのは誰だったか



「はぁ、」



ベッドの上で寝返り一つ
無意識に溜め息も一つ
その原因も一つ


白蘭と付き合い出して早いもので四年目に突入した


倦怠期が訪れるとされる三年の節目を、なんとか乗り越えられたのは今思えば奇跡なのかもしれない



「何時からだっけ・・・白蘭が好きとかって言わなくなったのは」



付き合い出して暫くは結構頻繁に言ってくれてたような気がする


嫌われてるとは思わない
嫌ってる人間を、特に何の利益もない人間を、あの白蘭が自分の傍に置くとも思えない


まぁ、私の自惚れかもしれないけれど・・・



「名前、大事な話があるから僕の部屋で待っててくれる?」



そう白蘭に言われたのは昨日の事


改まったその言い方に、覚えたのは言い表しようのない不安


いよいよ終わりなのか、と悪い考えだけが頭の中で無限ループ


正直白蘭にどう返事したのか、あの後何を話したのかさえ覚えてない



「私は好きなのになぁ」



どれだけ時が流れてもきっとずっと好き
もし、白蘭と別れたとして、白蘭以上の人が現れるとも思えない



「・・・誰が?」



物思いにふけりすぎていたせいか突然の声に肩が跳ねる



「え?」



驚いて声がした方を見ると、今まで考えていた人の姿


笑ってるその顔と裏腹に、その声に僅かに不機嫌さが混じってる



「・・・で、誰が誰を好きって?」



ゆっくりと近く互いの身体
本能的に恐怖を感じ、反射的に白蘭から距離をとろうと身体が後ろに下がる


けれどいくら広い白蘭のベッドと言っても、逃げられる範囲は限られていて、あっという間にその腕に囚われた



「ねぇ、名前?」



近づく白蘭の顔
鼻と鼻が僅かに触れ合う


直視出来ず、顔を逸らすけど、白蘭の左手が頬を包み込みそれを許さない



「さっきから聞いてるんだけどなぁ・・・名前?」



最終通告、と言うように白蘭の眼が細められる


そう言われても何と答えれば良いのかわからない



「へー、これだけ言っても答えない気なんだ・・・もう良いよ」



答える気にしてあげる、その白蘭の最後の言葉と共に塞がれる唇


驚いて反射的に開いた唇の間から、熱い白蘭の舌が入り込んで来た



「んんっ、」



激しくなるソレに息が続かず、苦しくて白蘭の胸を叩くけれど、その力はあまりにも抵抗というには弱々しく何の効果もなく───気付けば白蘭の服にしがみつく恰好になる



「っ、は」



ようやく解放された時には、ぐったりと白蘭にもたれ掛かるしか術はなかった



「僕から逃げられるとでも思った?」



白蘭の手が腰にかかり、これ以上ないってくらいに密着する


(逃げるつもりなんてないのに───むしろ逃げたいのは白蘭じゃないの?)



「・・・思っ、て、ない」



聞きたいことは沢山あったけど、息が中々整わず返せたのはそれが精一杯



「なんだ、好きなんだけどとか聞こえたから、てっきり名前が浮気してるのかと思ったよ」



わざとらしく白蘭が笑う
その余裕っぷりに、流石にカチンと来た



「それは、・・・それは白蘭じゃないの?!だって、だって好きとかってもういってくれない」



溜まっていた物が一気に外へと吐き出される
最後の方は涙声だったかもしれないけれど、一度外に出された言葉を押し戻す事は出来ない


涙の膜で見にくくなった視界の白蘭は一瞬驚いたような顔をして、口を開く


(・・・終わったかも)



「馬鹿だなぁ、名前は」



眼をギュッと閉じ白蘭の言葉を覚悟して聞いていたら、苦しいくらいに抱きしめられる



「そりゃあ僕は名前の事好きじゃないからね」



やっぱり・・・覚悟していても実際言われるとつらい
視界を覆う涙の膜がどんどん広がっていく



「あーあー、人の話は最後まで聞こうね・・・僕は名前を好きとかって言葉じゃ言い表せないくらい愛してるんだよ」



チュッと音を立てて白蘭の唇が目尻に触れて、次に紡がれた白蘭の言葉に私の涙腺は崩壊した



「だから、いい加減僕のお嫁さんになってよ」



(悩む名前の姿も可愛いけど、心臓に悪いね)

(え?)

(何でもないよ)



END