襖を後ろ手に閉めたまま、阿呆のように突っ立っている。というより動けない。
まずい。この状況はまずい。
何がまずいって、いや別に先生や六年生に春画がばれたのではない。 俺が聞きたいのは、五年長屋にこの女が熟睡してる、今正にこの状況についてだ! 全く皆目見当つかない!
「すー…すー……」
まだ静かな寝息。いびきこそかいてはいないが、寝相の豪快さは雷蔵に引けを取らない。大の字というか、布団は半分も被っていないし、寝着もぐちゃぐちゃ。
(……寝着の、合わせ目が、)
豪快な寝相によってか元々しっかり着ていなかったのかはわからないが、女の寝着の合わせ目が乱れて白い肌と、その、ちらちらと乳房の輪郭が見え隠れしているんだけども。
(……えっ、いや、いやいやいや!!)
さっき勘右衛門に言ったばかりだろ、生身の女には充てられないって! なのに、目の前で無防備に眠る女に、心の臓はどくんどくんと早鐘よろしく鳴り響くは、若干下腹部が熱くなってきている気がして。ああもう!
(は、早いとこ春画みつけて部屋から出ないと)
鉢屋三郎ともあろう者が、色に負けるなどとは絶対あってはいけない。 女が本当に妖怪の類だとすれば、これも策略の内かもしれないしな。
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