――医務室にて――
「ハルさんいらっしゃいますか、一年は組です!」
午前の授業が始まる前、水を打ったような静かな医務室に、元気のよい声がなだれ込むようにいくつも響いた。
「静かにしろ!」 「うわっ潮江先輩どうしたんですか!?」 「団蔵、今お前うわって言ったな?」
じりじりと団蔵に詰め寄るは潮江文次郎。その他には保健委員長の善法寺伊作、五年生の不破雷蔵と彼の顔をしている鉢屋三郎が思い思いハルの回りに座り込んでいた。
「鉢屋三郎先輩、どうしてここにいるんですか? 五年生はそろそろ体術の試験があると聞きましたが」 「庄左ヱ門は相変わらず冷静だな。なに、私たちもすぐに行くさ」 「うん、少し顔を見に来ただけだから」
よいせ、と二人の五年生は立ち上がり襖に向かう。去り際に、やっぱり目を覚ましてはくれないけど、と不破がぽつり呟いた言葉は一年生をひどく困惑させた。
「ハルさん寝てるんじゃないんですかあ?」 「目を覚まさないってどういう事ですか!?」 「もしかして流行り病にかかっちゃったのかも!」 「ちょっとみんな落ち着いて!」
喜三太、三治郎、伊助がいの一番に声を張り上げれば、沸き立つ甲高い声をぴしゃりと制止した保健委員長。
「みんながハルさんを心配してるのはよく判るよ。それにきっと、僕らなんかよりずっと原因は知ってるんじゃないかな」 「どういう意味ですか?」 「庄左ヱ門、みんないるな」 「「土井先生!」」
スッと襖が開いて姿を現したのは土井半助。自分の担当の生徒が全員いるとわかると、「皆ついてきなさい」と言った。
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