ぎゅうっと抱きしめた庄左ヱ門を離すと、次から次へとハルさんは順番に私たちを抱きしめていく。確かめるように、何回も名前を呼びながら。
「いすけ」 「きさんた、」 「しんべえ」 「さんじろう、」 「とらわか」 「きんご、」 「だんぞう」 「へいだゆう、」
乱太郎、とついに自分の名前をよばれる。直立する私を抱きしめるハルさんの体が、なんだかひどく冷たかった気がしてぞっとしてしまった。周りのみんなはこの妙な雰囲気に飲まれて何も言わない。ちらっと見ると、みんな熱でもあるみたいにぽうっとした顔をしている。あの庄左ヱ門でさえ。 ハルさんはひとつひとつ確認するみたいに私の体を優しく撫でた。頭や肩や、頬。真正面にいる彼女は、見たことのないようなすごくすごくきれいな微笑みを浮かべていた。
「乱太郎、」 「きりちゃん、」
一番最後まで抱きしめていないきり丸に、何かが変だと伝えたいのに上手く言えない。触れているハルさんの手があまりに優しかったから。 そして、すっとそのやわらかな人が私の前から離れると、私はもう何も言えなくなってしまった。
「きりまる、」 「ハルさん、なんか、なんか変だよ」 「変? そうかな」
あたしはいつだってあなたたちが大好きなのよ、そう言って微笑んだ。きれいすぎてこわくなった。
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