「なにそれ」

「網」


馬鹿だ馬鹿だと思ってはいたけど、これほど馬鹿とは。
コンクリート万歳な屋上に長い柄の虫取り網を持った仁王はなかなかに滑稽。
聞けば、昨日新しく手に入れて、電車に乗せて持ってきたらしい。傍迷惑な。



「虫取りたいんだったら中庭いきなよ」

「いかん」

「屋上には、虫いないよ」

「いかん」


ぶんぶん、とその長い柄を振り回すから危ないったらありゃしない。
逃げるように日陰に隠れた。
そんな必死に振り回すんだったら団扇持ってきてくれればいいのに。
首に伝った汗を拭いながら暴れまわる仁王を達観。
涼しげな顔してなにしてるんだよオニーサン。
いつも仁王が吹いているシャボン玉が置いてけぼりで可哀想。
ひたひたにスティックをつけて一吹き、


「ぴよーっ!」


小さなまん丸に仁王が飛びかかっていった。
音も立てずにシャボン玉は割れた。
網に収まった瞬間に消えたのが理解できないのか、きょっとん、と網を見つめる仁王は、

まぁ、よく見積もって小学生だろうか。

ばっさばっさと網をふる。
シャボン玉が出てくるはずがないだろう。
なんだかそのアホらしい姿に笑った自分が悔しくて、もう一吹き。


「ぷりっ!」


今度は大きめにできたシャボン玉に案の定仁王は飛び ついた。
盛大に笑ってやると、不機嫌そうな目がこちらを向いた。


「ばぁか、」

「馬鹿じゃなか」



夏の日の少年











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