「俺のキスが上手いって言ったら、お前さんの負けじゃ」

仁王くんってキス下手そう、友達との会話でぽろり。
それを思い切り聞かれ、思い切り宣戦布告をされた一週間前。
手始めに、とその時落とされたキス、そりゃあもう記憶に残らないくらい私の頭はショートしていた。
それが悪かったに違いない。



呼ばれて振り向けば、不意打ちにフレンチキスされたし、
間抜けに開いた口に無理やり入ってきた舌にディープキスもされたし、
猫にキスされた時なんて消毒とか言われながら唇を舐められた。

どのキスの時だって、キャパオーバーを起こした私の頭からはなんの信号も出なかった。
反応しない訳じゃない、反応できないのである。
しかし、それが彼には分からないようで。



「のぅ西崎、そのさくらんぼくんしゃい」

丁度口に運んで唇に当たったさくらんぼを求めてきた。
あーんなんて大口じゃあなく、まるでキスでもするかのような口。
…お弁当箱に残っていた最後のさくらんぼを仁王くんに押し付けた。

「ん〜、」
「美味しい?」
「ん」

モクモクとさくらんぼを頬張る仁王くんの口の動きがなんとも可愛くてずるっこい。
ずるずると口の中に引き込まていくさくらんぼの茎を見送った。
…茎まで食べるのか。
種だけポロッと出したかと思うとそのままモソモソ動く口を見つめる。
何をしているのか、彼には謎な行動が多すぎる。
なるほど、さくらんぼの茎まで食べる国から来たに違いない。
だから私の知らない言葉で喋るのだ。(プリッ。)
さすれば柳生くんはバイリンガルといったところだろうか。(プリッ。いい加減にしたまえ。)
考え事に夢中になっているとちょいちょい、とブレザーの袖を引かれた。ん、なに?

べろり、と大きく見せられた舌。
その上には結び目のできたさくらんぼの茎がころん、と乗っかっていた。

「あ、キス上手いんだー」

あ、母音が延びきる前に見たのは仁王くんの最大級のしたり顔だった。


キスうまいんです。





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