数字とアルファベットがちょこちょこのったプリントを手渡すと、彼はあからさまに嫌な顔をしてすぐにプリントを折り曲げ始めた。

「ちょ、ちょっと財前くん!」
「なんやねん、苗字」
「課題やらないと、」
「えぇやん」
「で、でも!」

私の課題じゃないが、補習があるくらいなんだから、やらなくちゃいけないものだろうに。
だけど、財前くんにその気はないらしい。
綺麗な指がどんどん折り目をつけていく。
思わず見とれる。
テニスをしているのに綺麗な手だ。
数式はちょこっとしか見えなくなった。

「何折ってるの…?」

彼の手元で着々と完成に向かうその紙が何になるのか、私には検討もつかなかった。
かちりかちりと折られていく。

「…折ったコトないん?」

ちろりとこちらを見る財前くんに向かって頷いた。
折り紙もまともにやったコトのない私にはそれが新鮮以外の何物でもなかった。
ちょいちょい、と呼ばれて目の前に座るとHRで配られたばかりのプリントが机の上を滑った。

「は?」
「百聞は一見に如かず。折るで」

さっきまで完成に向かっていたはずのプリントがまた、いや折り目がやたらついた紙に戻っていた。
おそるおそる、プリントに手を伸ばした。




「飛行、機…?」
「おん」

出来上がったのは大きな紙飛行機だった。
つう、と財前くんの手を離れて空中に浮いたそれを見て、なんとも言えずに興奮した。
まさか浮遊するものが作れるなんて!
ゆったりとした弧を描いて落ちる飛行機を見ながらただただ興奮した。

「財前くん財前くん!私の飛行機も飛びますか!」

ぐっと折ったばかりの飛行機を彼に押し付けると何故か手元に戻ってきた。
私に飛ばせと言うのか、そりゃあ無茶な話だ。
折ったのも初めてな人間が飛ばすなんて。
そう言えば、つまんでろ、と怒られた。
広がった翼の下に突き出した薄い紙を軽くつまむ。
そっ、とその手に財前くんの手が重なった。

「離して」

ぱっ、と指を離すと先刻の財前くんの飛行機のようにつう、と空気を裂いて飛行機は飛んだ。


紙飛行機(「すごいよすごいよ!財前くん!」「さよか(ドキドキしたりせぇへんのかこいつは!)」)





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