彼との出会いは、夕暮れの教室だった。
あたしは彼氏にふられて号泣中、忘れ物を取りに来た彼が慰めてくれた。
好きだったって言ったって、所詮自然消滅じみてた恋だった。
冷たい人だとばかり思っていた彼は、思った以上に優しくて。
嗚呼、なんて単純な女なんだろうって思いながら、あたしは彼に恋をした。
その彼の家にお呼ばれした。
白黒基調のシンプルな部屋に彼の好きなカーマインが少し。
うん、彼に似合ってる。
それにしても、家にお呼ばれしたというコトは、彼もあたしのコトを好きという解釈をしてもいいのかしら。
確かに彼は、特別に思うヤツ以外は部屋に入れないと言っていた。
「ねぇ、財前くん」
「なんや波野」
「あら嬉しい!ようやくあたしのコト、名前で読んでくれるようになったのね」
「昔っからや、阿呆」
「そうだったかしら?」
どきどきしてたあたしの胸に彼は嬉しい言葉を突き立ててくれた。
昔っからだって!
あたしたち出会って数週間なのに。
なるほど、財前くんはずっと前からあたしを思っていてくれたに違いない。
嗚呼、あたしたち両思いね。
「って言うかなんやねん、その呼び方」
「どういうコト?」
一体どういうコトかしら。
もしかして、あたしも光と呼ぶべきなのかしら。
そうね、光がそうやってあたしを呼んでくれるなら、あたしも光と呼ぶのが相応しいもの。
それにしたって、そうやって呼び合う仲になれるなんて、幸せすぎて怖い!
「波野も財前やろが」
目の前の夢が弾けた。(「あ、あぁそうだった」「感化されすぎや」)
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