「なにしとん」
「あ、財前くん!」
美術室で遊んでると、急に声をかけられた。
振り返ると、きらりと光る5色のピアス。
反射した光が眩しくて、一瞬だけ目を細める。
染料で染まったあたしの指も5色なのに、財前くんとは随分違うものだ。
くすんで、濁った色もある。あんなキラキラしていない。
「レザークラフト?」
「美術で使ったヤツが余ったから、ブレスレットにしようと思って」
「ふぅん」
手元には皮。
簡単なブレスレットが作れるくらいのサイズがあまったから、美術室と道具を先生から借りた。
ちなみに、1本は完成済みだ。
赤に染め上げたそれは、数時間前に仕上げの塗料を塗って乾燥させている。もうそろそろ乾いたかな。
皮に染み込んだ赤は、赤というよりも紅。
そういえば、財前くんはカーマインが好きなんだっけ。
そうだ、これ財前くんにあげちゃおう。
デザインも女っぽくないし、あたしは2本もつけないから。
塗料は乾いていた。
「これ、あげる!」
ブレスレットを財前くんに差し出すと、何故か沈黙。
「…西崎、お前分かっとるん?」
「え?何が?」
嫌だったのだろうか。
まぁ、嫌であっても仕方ない。
それもそうだ、素人の手作りなんて寒いのかもしれない。
でも、何が分かってるんだろう?
「ネックレスとかリングとか、ブレスレットとか」
あたしが差し出したままだったブレスレットを掴むと、財前くんは自らの手首にそれをつけた。
嫌だった訳じゃないらしい。
それにしても、ネックレス、リング、ブレスレットとか、は一体何があるのだろうか。
その続きが気になって財前くんを見上げる。
羨ましいくらいに整った顔。贅肉なんてない首筋。
5色のピアス。
学校指定のシャツの下の黒いTシャツ。
腕にはさっきあげたブレスレット。
「丸く人を囲むものをあげるっていうんは、自分の所有を示したい時やねんで」
は?なんだって?
自分の所有を示してる?
それは、飼い主がペットに首輪をかけるのと一緒というコトだろうか。
待て、その考えは、あたしが財前くんを所有しているコトに直結している訳で…。
「ちがっ、そんなつもりで渡したんじゃな、」
慌てた。
そりゃあそうだ。
頭の中では、自分が犯した失敗の恥ずかしさと、財前くんがそう思ってたっていう切なさが混じる。
とにかく、ブレスレットを返してもらわなきゃ。彼の腕に手を伸ばすと、その手ごと捕まえられた。
「分かっとるわ。ま、別に西崎の所有物になってもえぇけどな」
でもま、俺が所有しとる方がえぇけどな。
財前くんが言っているコトがいまいち理解できてないあたしの頭はショート寸前。
キャパオーバーだよ、財前くん!
「今度は俺が指輪贈ったるよ」
彼の腕のブレスレットは結局そのまま。
そのうちにすぐ財前くんからもらった指輪をするコトになったのは後のはなし。
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