携帯はあたしの恋人である。
いやこう言うと語弊がある。
携帯は、あたしの恋人が現れる場所だ。
ふん、誰に何を言われようが、あたしの恋人はこの中にいる。
いや、彼はあたしの頭の中にいる!
文字列を目で追いかけながらニヤニヤニヤニヤ。
あぁ、やっぱり彼はこの世の男なんかよりも数百倍かっこいい。
「甘く囁かれた」あたしの名前は、何故かあたしに絡んでくる男が呼ぶのより数百倍魅力的だ。
ニヤニヤニヤニヤ。
「まぁたやっとるし」
ひょい、と横から携帯を取り上げられた。
嗚呼!あたしの彼を取らないでよ!
アンタに名前を呼ばれたってミジンコほども心が揺らぐコトはない。
「何よ、別にいいじゃない」
「やから、こんなんより俺を見ればえぇのに」
かちかち、と忍足の無駄に長い指があたしの携帯を弄る。
返された携帯にはさっきまで読んでいた小説はなく、お気に入りに入れていたサイトも全てなくなっていた。
何をしてくれたんだ…!
「馬鹿も休み休み言いなさいよ、誰がアンタみたいなのを好きになるっていうのよ」
必死で携帯を漁る。
確か、前回こうやって忍足にデータを消された時にメモで残しておいたサイトが残ってたはず。
くっ、ブログの携帯記事が残り過ぎてて探しにくい。
「でも、波野はそれに自分を重ねとるんやろ?」
ようやく見つけたサイトに入るとせわしなく動いていた指が少し遅くなった。
お待たせ!
「究極のバーチャル」
そうよ、究極のバーチャルだ。
だからって何が悪い?
彼は無条件にあたしを愛してくれるのだ。
忍足とは違うんだ、あたしをフった癖に纏わりつくアンタとは違うんだ。
「なぁ、現実(リアル)を見いや」
ぐっ、と顎を掴まれて忍足と目がかち合った。
携帯が落ちた。
嗚呼!あたしの彼氏がっ!
バーチャルリアリスト
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