「やだよ、財前くん」

視界が左右にブレる。
掴まれた手首が痛いし、押し付けられた背中も痛い。
泣いてもおかしくないのはこっちなのに、何故か彼が泣きそうで。
彼は怖いはずなのに可哀想で、

「なして、」
「好きじゃない、」
「嫌や…!」

可愛かった。
整った顔が歪むのも、綺麗な涙が流れるのも、全部あたしのせい。
素直に嬉しいと思うコトは間違ってないでしょ?

「だってあたしたち友達でしょ?!」
「友達なんかやない!」

クールなんて言われてる彼を魅了したのは、あたし。
だってそう仕組んだんだもの。

「好きや、好きなんや…っ」
「ど、してそんなコト言うの…?」
「誰よりも波野を好きやから、大好きやから」

嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい!
あたしばっかり財前くんを好きだと思ってたんだもの!
悲痛で哀れな彼はとっても可愛い!
だから、まだ言ってやらない。あたしが財前くんを好きだって。
財前くんが何もかも捨てて、世界があたしでしか見えなくなるまで。

「愛してるって言うてくれ…っ、」

まだ言ってやらない!


「愛してる」と言ってください。




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