バイクに乗ると、人間の重みを背負った車体が少し沈み込んだ。
うん、気分がいい。

「おい、なに乗っとんじゃ」
「…いいじゃない」

まーの一言で全部がぶっ飛んだ。
なんだかあたしが世界1のライダーのような気分がぶっ飛んだ。
全く余計なコトをしてくれる。
シートから降りて、まーがバイクに跨るのをただ見てる。
あたしよりも重い体が、勢いよい乗っかったからか、さっきよりも車体は沈んだ。
波野、と名前を呼ばれて上を見れば丸いもの。

「ん、メット」

差し出された赤いメットにさっきまでのドキドキが戻ってくる。
勝手に跨ってはみたものの、正直のところ、バイクに乗ったコトなんてない。
ちなみに、チャリ以外で2ケツしたコトがない。
要は、バイク2ケツ初心者なのだ。
さっきまでのあたしは一体どこに行ったんだろうか。
まーが跨ったよりも若干高いところに座り込む。
さながらロデオな気分だ。

「チャリじゃないんじゃから、そんな乗り方できる訳なかろ」
「どうすればいいの」

アホか、みたいな反応をされたが、一体どうすれば正解なのか。
ふよんふよん、行き場のない手が宙を彷徨う。

「抱きつけ」
「は」

一瞬時が止まる。
いや、待て。まーは今なんて言った?
抱きつけ?
別にまーに抱きつくくらいどうってコトないけど。
むしろ毎朝はハグから始まると信じてやまないけど。
こう面と向かって言われるとなかなか抵抗が生まれる。

「だから、こうやって抱きつきんしゃい」
「うあぁあっ!」

漂っていた手を掴まれて引っ張られたと思ったら、すでに全身にまーの体温が感じられた。

「うるさい。行くぜよ」

スロットルを回すとあたしの体重分なんか感じさせないくらいにスムーズに道路に繰り出していった。



「ねぇ、まー」
「なんじゃ」

信号待ちの時、隣を高校生のカップルらしき2人がチャリ2ケツをしながら通り過ぎた。
なんか青春って感じだ。
高校時代なんて毎日まーのチャリで2ケツしてたのに。
大学ももう2年生だ。
いつまで経っても、まーとの関係が友達以上になる瞬間が来なかったコトに苦笑。
向こうから見たら、あたしたちは恋人に見えてるのかな?

「バイクで2ケツすると、好きになっちゃうって聞いたけどホント?」

興味本位。
ただそれだけだったのに、

「ほーんと」

楽しそうに言うまーのその一言であたしの頭はショートした。


好きになっちゃうでしょ?




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