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小高い丘の上の小さな教会。
扉を薄く開くと、祭壇の前に新郎新婦が並んで立っている。
片言な日本語を話す神父の顔はよく見えない。

「カラマーツ、ナンジハスコヤカナルトキモ――
「てめェェ!破ったら死ぬからぁぁああ!」

突然新婦の方がキーキーと喚きだす。
その顔はお世辞にも綺麗とは言えな……いどころじゃねえ!!
何だアレ!?化粧しててもヒキガエルの方が百億倍美人だろケツ毛燃えるわブス!!

「もうムリ我慢の限界!あんなドブスが義姉さんになるとか絶対嫌だ!早くカラ松兄さん引き剥がそう!」
「十四松、野球だぞ。ボールはあのブスとクソ松の頭な」
「えっ野球!?」
「っしゃ、久々の喧嘩だー!暴れんぞチョロ松ー!」
「お前ら当初の目的忘れてないよな!?あくまでカラ松の奪還だからな!?」

僕らの兄弟のカラ松が、ある日何処からかとんでもなく不細工な女を連れて帰って来た。
これが見た目だけならまだしも性格も超ドブスときた。いいようにカラ松をこき使い、今済し崩しに結婚しようとしている。
カラ松は何があったか知らないけど「俺がいないとダメなんだ」とか言って聞かないし!
カラ松が馬鹿でイタいのは昔からだから無視してたけど、事ここに至ると黙っていられない。
奴との結婚を断固阻止するため、カラ松の後を付けて来て現在に至る。

ごめんなカラ松、今までほったらかしで悪かったよ。
他の兄弟は自分のために来てるみたいだけど僕は違うから、ちゃんとお前の事心配してるから。
馬鹿でもイタくてもカラ松ならもっといい相手がいるはずだから。
例えばにゃーちゃんみたいな可愛い……つーかそれ以下の女が義姉なんて認めねええエエエ!!

「「「「「その結婚ちょっと待ったああああ!!」」」」」
「!?ブラザーズ!今こっちに来ちゃ駄目だ!!」

―ゴゴゴゴ…

「…………え……?」

どぅえええええ!?扉開けたらなんかブス子が巨大化してるゥゥうう!!
カラ松鷲掴みにされといて何平然としてんだよ!?
「5m級…!」じゃねーよおそ松兄さん!どっから出したそのでかいカッターナイフ!
「終わった…」じゃねーよ一松!!気持ちは解るけど終わらせようとしないでええ!!


「“悲しいかな、われは果実の種を食む”」

あ"あ"あ"ブス子にロックオンされたやっぱお終いだぁぁああ!!と思ったその時だった。
誰かが僕らの間を通り抜けた。

「“慈しみの滅びし国には悪が蔓延り、欲が善を退ける。汝、裁きの刻が来た”」

黒いコートを靡かせ静かに身廊を歩くその人。
声から女性だということが解るけど、ニット帽・ゴーグル・マフラーで顔を覆っていて表情が見えない。
呪文のような難しい言葉を唱えながら、その人は怯えることなく巨大ブス子に近付いて行く。

「“主よ、今一度我らを赦し、全ての罪を海の深奥に沈め賜え。その子に真を、その祖に慈悲を示し賜え。嘗て我らの父祖に誓われたように”!」
「「ギャぁああ"アァァ"アあ"あ!!」」

唱え終わった途端野太い叫び声が教会に響き渡る。
発生源のブス子はカラ松を放ると、神父諸共あっという間に灰になって消えてしまった。
目の前の光景に呆気に取られる僕らを余所に、カラ松は何時ものどや顔でその人の肩に手を置いた。

「ナイスタイミングだカラ松フレンド、まるで計ったかのような絶妙さだ。さてはヒーロー演出のために外で待機してたんじゃ…?ビンg痛い痛い痛い!」
「Sランク任務後の疲労に耐えてヴァチカンから駆け付けた級友に対して開口一番それかー」

カラ松の腕を捻るその人の話し方に、僕らは確信した。
抑揚のない声。間延びする語尾。懐かしいとかじゃなく、寧ろ聞き慣れた話し方だった。
おそ松兄さんが名前を呼ぶより先に、その人がゴーグルを取るより先に、十四松がその人に飛び付いた。

「陽菜ちゃん!!」
「うぐっ!」
「やっぱ鼓さんか、ひっさしぶり〜」

いきなりの抱擁、寧ろタックルをその人――鼓陽菜さんは少しよろけながらも受け止める。
さっきの異様な出来事に緊張してた僕らも、知ってる顔にほっとして……ふと気が付いた。

「ちょっと待てカラ松、“ナイスタイミング”?まさか今日までのあのやりとり…アレを倒すための作戦だったの…?」
「正確にはアレの致死節を解明するまでの時間稼ぎー。カラ松今回遅かったねー」
「ふっ、彼女の目を欺くため千里眼(ミレニアム・アイ)が使えなかったからな…だがこのカラ松にかかればどんな迷宮も解kぐふゥッ!?」
「っざけんなよクソ松ボケコラ!!」
「僕らの心配返せよ!何がミレニアムアイだよイッッッタいよねぇぇ!!」

一松のアッパーカットが決まると、倒れたカラ松をトド松が逆エビ固めにする。面白がったおそ松兄さんも参戦。
僕も一発殴りたかったけど、怒りよりも安堵と疲れの方が勝って教会の座席に座り込んだ。
鼓さんはというとカラ松のことは無視で、十四松の話に楽しそうに相槌を打っている。
一見彼女は無表情だけど、慣れると顔のちょっとした変化で感情が解るようになる――それほどまでに僕らの友好関係は続いている。

全く違う日常を生きるようになった僕らだけど、それでも、僕らの仲はいつまでも賑やかに続いていくんだろう。
あまり見た事がなかった厳つい黒コートの彼女を見ても、僕のこの考えがブレる事はなかった。



   *  *

というオチなし誰得シリーズ。

【夢主設定】
名前:鼓 陽菜(ツヅミ ヒナ)
のほほんとした性格だけどしれっと毒舌。武器は弓。
↑時点で上一級祓魔師。持ってる称号は騎士・竜騎士・手騎士・詠唱騎士。

【ネタバレ】
青い夜で青焔魔を鎮めるために戦った雷天帝(ユピテル)が、瀕死で縋り憑りついた相手が夢主。
お陰で魔障は受けたことはないが視える。下級なら触っただけで溶ける。
六つ子と中学まで同じ学校。末松以外とは面識がある程度。中学で十四松をいじめから庇いいじめの標的になる。
両親は祓魔師だったが中3の時に殉職。そこそこの名家の祖父母に引き取られ、聖十字学園に入学し祓魔塾へ。
六つ子はもともと長男と次男のみ視える人。長男は悪魔と仲が良く勉強する気にもならなかったが、次男は知識を求めて聖十字学園に奨学金で入学。
以後兄弟も視えるようになり、夢主も次男を通して他の兄弟とも親しくなる。
次男は卒業後祓魔師は目指さずニートに(笑)でも時々致死節解明の手伝いをしてお小遣いを稼いでいる。

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