白雪 U | ナノ
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「ゔお゙ぉい!!ゲスガラス、待ちやがれぇえ"!!」
「やれやれ、随分紳士的でない挨拶ですねえ」
「煩え!いい加減その胡散臭い話し方やめやがれ!!」

並中から数キロ離れたビルの上。
学校に残った京都達と別れて移動していたら、大声を上げてスクがオレの前に飛び出してきた。
最後に会った時から随分と長くなった銀髪は、今はレインコートに隠されている。服の中ゴソゴソしそうだけど邪魔になんねえのかな?
ビジネスモードで話してると近所迷惑関係なく喚いてきたから、仕方なく元の話し方に戻してやる。オレだって同級生相手に白々しい態度をとり続けるのは疲れるし。

「…相変わらずの拡声器要らずだな。何の用だよ?一応オレ、お前らの敵チームの教育係やってんだけど」
「それだぁ!今まで消息不明だったお前がひょっこり出てきて、カタギのガキ共の後ろ盾になるたぁどういうつもりだ!?」
「そりゃこっちのセリフだ。親の跡継ぐっつってたアルをお前らの部隊に引き込んでるとかどういうつもりだ?お前らあいつのファミリーに何したんだよ」
「何もしてねぇ"!2年前いきなりウチに入隊してきたと思ったらあのザマだ。聞いてもだんまりで何考えてるか解ったもんじゃねえ」

声こそ落ち着いてきたスクだが、舌打ちを零して苛立ちを隠さない。お前学生時代はアルのこと鼻であしらってたクセに、今は甲斐甲斐しく話しかけてんのかよ。想像して思わず噴き出しそうになるが、怒らせるとめんどくさいからここは堪える。
だが確かにあいつは、何があったか思わず心配するレベルで変わっていた。8年前までディーノに負けず劣らずのへなちょこで、オレが仕掛けた悪戯に毎度2人して引っかかって半泣きになってたのに。今日見たあいつは自分以外誰も信じてないって様子だった。なるほど、6年の間にあいつの身に何があったのか気になるってもんだ。

「うーん…オレはあの事件の最中にボンゴレ邸抜け出して、そっから京都の付き添いするまで一切連絡してなかったからなあ。何か知ってるとしたらディーノかも」
「カラスも情報なしか。つかお前、ミツ…京都がいなきゃ一生雲隠れしたままだったってのか?」
「そう考えたこともあったな。まあ今になって思えば、いずれは戻って来てたんじゃねーかな」

あの日、只でさえ脆かったオレ達の家族関係は音を立てて崩れ落ちた。
8年振りに会った養父は罪悪感を、義兄は憎悪を、あの頃よりも大きくして抱えていた。カラスの名を冠すクセに尻尾巻いて逃げたオレは、今こいつらからどう見えているんだろうか。
あの頃からオレは、変われているだろうか…。

「白雪姫が舞い降りたり、バカ兄貴がまたしてもクーデター起こしちゃったり…こうもボンゴレに転機が訪れるなんてさ、カミサマの思し召しってやつを感じるんだわ。いい機会だから、いろいろケリを付けてやるさ」
「…ハッ、言ってろ。いずれクーデターなんて口にできなくしてやるよ。テメーも小僧共も、京都も全員蹴散らしてやる」

ニヤリとスクが顔を歪ませる。
こいつだけは昔と変わらない。髪形は随分様変わりしたけど、傲慢さも一途さもあの頃のままでどこかほっとした。
そんなことよりもだ、

「お前やけに京都に反応するじゃねーの。何?あいつを娼婦(おんな)にしようって魂胆?標的だけじゃなく夜の相手も剣士がいいのか?」
「ちげえ!何でそうなる!?あの短期間で有名になるほどの腕前なら、それをこっちに引き込めねえかって思っただけだぁ!」
「ああ、剣好きのパーティが欲しいってか…まあ無理だな。オレらじゃアレを飼い慣らす事はできねーよ」
「…俺が勝てねーって言いてえのか?」
「『私は剣士ではない、“侍”だ。誇るのは力ではなく、“士道”だ』」
「!」
「言われたことがあるみてーだな。あいつは力云々の前にさ、もっと根本的なところから違うんだよな」

今のは京都が漫画の中で天人に言った台詞だ。京都は侍で、それはマフィアで言う剣の使い手とは意味が違う。
力に従うのがマフィアの掟だが侍はそうじゃない。仕えると決めた相手からは決して離れない。どんなに劣勢でも、滅びが目の前に見えていたとしても、途中で鞍替えするような真似はしない。
幾度真選組崩壊の危機に見舞われても、局長を守るため命懸けで仲間と共に戦った彼女だ。こちらの世界での主であろう沢田綱吉を、死んでも見捨てることはないだろう。

「そちらさんの勝ちが決まった時はそうだな…速攻でふん縛って監禁するか、潔くその場で殺してやった方がいいぜ。彼女に対して真剣なら、後者がオススメだな」

それだけ言い残してオレは地を蹴り、別のビルへと飛び移った。視線は感じたが追いかけてくる気配はない。
しかしスクと京都が知り合いだったとは。どうせあのイタリア短期アルバイト中に出会ったんだろうが、にしても世間が狭すぎだろ。そして新密度も高杉だわ。強面ロン毛暗殺者が8つ歳下の戦乙女を気になってる図とか、何それウケる。めちゃくちゃ弄りたい。
あーあ、こんな状況じゃなかったらなぁ。
イタリアとは違った湿度の高い空気の所為で、オレの溜め息も暫く近くをどんより漂ってる気がした。


   *  *


獄寺は焦っていた。

「俺、本当にあの時勝負に割って入ってよかったのかな…」

主君の憂いを晴らしたいのに。いつものように、俺がみんな吹っ飛ばしてやりますと言い切りたいのに。

「よかったぞ。部下を見捨てるようなボスは、ボンゴレにはいらねーんだ」

まだ対抗策が完成していない。万全な状態とはとても言えない。
かける言葉が何も浮かんでこない。

「…この戦に於いて、ボンゴレリングは城だ。ボスの物は謂わば本丸に当たる」
「京都?」
「兵一人のために本丸を明け渡すなど言語道断。その甘ったれた判断は命取りになる」
「っ…」

「だが――嬲られる童を前に傍観を決めるなど、兵士どころか人間ですらない」

…それに比べてこの女は、いつだって悠然とそこにいる。

「鳶尾の言う通りだ!沢田、今夜のお前の判断を否定する奴はここにはいないぞ!」
「おう。俺達が勝って取り返せばいいんだから、大丈夫だぜ!」

対戦が明日に回って来たから、なんて誤魔化しはきかない。ここ数日修行が思うように進まず焦りでいっぱいだった。
対してこの鳶尾京都は、修行の愚痴は散々零していてもその顔に不安は微塵も見えない。嫌いな授業だが必修科目だから仕方ない、という程度の口ぶりでいるが目は闘志で満ちている。修行成果は聞くまでもないだろう。

戦いを知らなかった十代目や山本なら、京都の強さは漫画のキャラクターであることを抜きにしても素直に尊敬できるかもしれない。だがマフィア界の争いを知りそれなりに腕を磨いていた自分にとってはプレッシャーでしかない。
戦闘力だけではない。彼女の堂々とした発言や振る舞いには、周りを安心させるとともに士気を鼓舞する力があった。同い年なのにこんなに心身共に力の差が開いている。
修行が始まった頃には大きな口を叩いていたのにこの様だ。カウントダウンが24時間を切った守護者戦が、焦りに拍車をかける。

「みんな…ありがとう…リボーン、俺…もっと強くなりたい」

――だから、こんな事態になってしまったのかもしれない。

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