白雪 U | ナノ
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「はぁ……っは、けほ…」

山の中にひっそりと建つ道場。あさり組と書かれた提灯が提げられたその道場の脇で、山本は顔を洗っていた。
今まではアニメや時代劇の見様見真似で剣を振っていたが、このままでは到底あの銀髪剣士には敵わない。
剣道をやっていた父親に教えを乞うてこの道場に来たが、動きに全くついて行けない。
竹刀の握り方から筋肉の使い方まで、野球の延長線では殆どカバーできない。
その上山本に最も強い印象を与えたのは、あまりにも近い相手との距離だった。
野球でも走塁した時等に相手と直接ぶつかる事もあるし、ボールやバットで怪我をする事だってある。だがそれはあくまで点を取るため・取らせないためであって、その過程での接触だ。
だが剣術は違う。相手とぶつかるべくして接触している。
修行である今は防具を身に付けているが、本当の勝負の時は何も付けられない。武器もお互い竹刀ではないだろう。防具越しで竹刀の攻撃でも体中が痛むのに、だ。
本番ではどうなってしまうのだろうか…――

「お前が道着とは、なかなか新鮮だな」
「!京都…」

突然聞こえたメゾソプラノに顔を上げる。
自分の目の前に、何処か疲れたような顔をした京都が竹刀を持って立っていた。
剛は町内会の人に呼ばれて今は家に戻っている。恐らく彼から自分の居場所を聞いたのだろう。
感じたことのない感覚がこみ上げていたのを振り払うように、タオルで顔を拭った。

「どうしたんだよ、なんか疲れた顔してね?」
「どうしたもこうしたもない。私も守護者とやらに選ばれてプチ修行編に突入しているんだ」
「マジか!あれっ、俺守護者に選ばれたって話したっけ?」
「ビゾラが私の担当でな。奴から聞いた」
「へえー、なんか京都の技のバリエーションが広がりそうだな!俺も親父に剣道習ってんだけどさ、やっぱ簡単にはいかねーな…さっきからコテンパンだわ」

何時もと変わらない明るい口調だが、吐く溜め息は重い。
部活の後に感じる気持ちのいい疲労感とは違って、体の中に黒い靄が残っているようで心地悪い。
どんより沈む感覚と早く打開しようという焦燥感が入り交じり燻っている。何処かに吐き出してしまいたかった。
それでもへらりと笑って見せる山本に、今度は京都が溜め息を吐いた。

「お前は世渡り上手だと思っていたが、どうやらそうでもないらしい」
「え?」
「銀時の言葉を借りるが、風船は上手くガス抜きをしないと何時か破裂するぞ」
「いつも風船パンパンな京都に言われてもなぁ…」
「何を言う、お前が見てないだけでちゃんとガス抜きしている。糖分を摂ったり雑誌を読んだり、この前は京子達の買い物について行ったぞ」
「(あれっ、意外な女子力)」

普段の様子からは少し想像し難い女の子らしさに数回瞬きする山本。
そんな山本を横切った京都は、道場の入り口に立て掛けてあった竹刀を空いた手に取った。

「本来ならきちんとストレス解消した方がいいだろうが、時間がないのでな。今の悪い刺激を霧散させるために、これから良い刺激を与えてやろう」
「刺激…?」
「今のお前は敵の剣撃の気迫に押されているきらいがある。ならば今度は仲間の剣撃で、お前の気迫を喚起させるまでだ…そうであろう、剛殿」

ふわりと京都が投げた竹刀を受け取ったのは、山本の後ろに立っていた剛。
剣術修行が始まってから、彼の眼は依然として鋭い。その眼は今、京都をじっと見据えていた。
髪を頭の高い位置に結び直す彼女を見て、剛はゆっくり口を開いた。

「…武、俺ぁお前にも京都ちゃんにもねえモンを持ってるつもりだ。そして京都ちゃんも、俺やお前にねえモンを持ってる。お前がしなきゃなんねえのは俺達を越える事じゃねえ、俺達を真似る事だ」
「かの有名な信長公も、西洋文化を取り込み西洋の真似をする事で天下統一の道を歩んでいる。勿論、真似だけでは成長は出来ない。つまりはお前が良いと思ったものを取り込み、そこから己流を見付けねばならん」

「要するに何が言いたいかってーとだな、」
「見せてやるから学び取れ」

道場の戸を引いて中へ入る京都に剛が続き、山本も二人を追った。
ブレザーと靴下を脱ぎ捨てた京都は、剛と竹刀を向け合う。
その二人の様子にこれから始まる事に気付いた山本は、自然と壁際で正座をしていた。


「俺の剣を―」
「私の士道を―」

「「篤と見るがいい!」」


言うが早いか、二人の竹刀がぶつかり合う。
竹刀同士がぶつかる音と共に、剣圧が山本の所までびりびりと押し寄せる。

この瞬間山本は、自分の腹の底に響く何かを感じていた。
それが何であるかに気付くのは、この日から数日後のことである。



NEXT

何だか中途半端ですみません。次回は早々に奴らと対峙させます。
前回山本の出番少なかったので今回は彼をクローズアップしました。
原作より弱っちい感じがしますが、まあ彼まだ中学生だもの。殺し屋相手に怯みだってするし挫けることもあるよね。と思ってこんな感じになりました。

あとサラッと出て来た夢主の対戦相手。ゲームキャラの彼がカッコよすぎたので使っちゃいました。
但し管理人ゲームをやった訳ではないので、彼の生い立ちや今後の展開はほぼオリジナルです。ご注意ください。
バイク1000ccとかって、見ただけで解るんかな…?

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