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昔々あるところに、3

「“リデュース”」

伸ばされた大きな手に、オーラを纏った自分の手を当てると指が消えた。
巨人が奇声を上げてる間に項を削ぎ落とす。次いで近付いて来た残りの数体もオーラで目潰しをして項を削いだ。私の念能力は…オーラで触れた分だけ、何でも消せるんだ。
ああよかった。これならこの世界でも、盗賊になっても役に立てる。私の行く手を阻む奴らは文字通りこの手で消してやれる。だから今は、今しか出来ないことを全力でやろう。

“未来”を望むなら、命を懸けて“現実”と戦うしかない。
みんなが私に兵士になれって言ったのは、きっとこのためだから。

「来やがれ化け物共、狩りの時間だ」

ガスはあまり多く残ってないし、ブレードも刃溢れしていてストックは残り一組。
でも私には、みんなから教わった念がある。"流"の速さは旅団一だ。
ブレードを握る両手にオーラを集中させて、近付いて来た巨人の群に突入した。

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「ヒナ、兵士になりなさい」

みんなと出会って一年が経った頃、パク姉に話があるって呼ばれて言われたのがこの言葉。7人が住むには少し狭い家のリビングに、椅子に座った私とパク姉。そして他のみんなも壁際に立っていた。
優しいいつもの笑顔じゃない深刻そうな顔を見て、冗談でないことがわかった。

「…何で?兵士って宿舎制だよ?みんなと暮らせなくなる…」
「ええ知ってるわ。でも言ったでしょ、私達だって何時元の世界に帰るかわからないって。そうなる前に貴女により安全な所にいてほしいのよ」
「っ…やだ離れたくない、みんなが帰るなら私も一緒に行く…!」
「あたしらだって、出来るならそうしたいよ。でもあんたはまた別の世界から来たんだ。この世界跨いであたしらのとこに来れる保証なんてないだろ?」
「お前も自分のとこに帰れりゃいいけどよ、俺が精孔空けちまったし記憶も曖昧だからな…もしかしたらって事があると怖えんだよ」
「いや…いやだ、一緒にいてよ…独りにしないでよ…」
「頼む、俺達がいなくなってからじゃ遅いんだ。ちゃんと見送りさせてくれ」
「お前ならいい兵士になれる。どの兵団でも上手くやってけるさ。な?」

正論だというのもみんなを困らせてしまうのも解っていたけど、それでも耐えられなくて駄々をこねた。
地下街と呼ばれる犯罪が蔓延るこの街で、私が無事に生き延びられたのはみんなのおかげだ。一年前この地に降りた時あっという間に奴隷商人に捕まった私を拾ってくれて、非現実的な私の話を信じ、身を護れる力をくれたのはこの人達だ。
ここが自分の生きてきた世界と違うことは判る。けれど家族や友達、自分がどんな風に育ってきたのかはよく覚えていない。この世界で今みんなと離れたら、今度こそ私は心身共に独りになる。
そうなるくらいならいっそ……――そう思い付いた時、

「ヒナ」

静かな少し高い声がすぐ近くで聞こえた。
大好きなその声に呼ばれ見上げると、黒い何かに頭をすっぽり覆われて慌てて首を捻って黒いものから脱出する。すると声の持ち主フェイ兄が目の前にいた。珍しく口元を隠してないな…と思って漸く、今私の首にあるのがフェイ兄のマスクだと気付く。

「それ、暫く貸しとく。次来た時返してもらうね」

次――その言葉が私の胸に染み渡った。
ほんのり温かい手が何度も私の頭を往復する。
…狡い。そんな事言われたら孤独から逃げられない。

「会いたかたら強くなれ。邪魔な奴蹴散らして、ワタシ達出迎えろ」

私は望まれてる。常識で考えれば出会った事自体奇跡なのに、二度と会えない可能性の方が圧倒的に高いのに、この出会いをこの人は望んでくれている。今まで堪えていた涙腺が遂に決壊して顔を手で覆うと、ウボ兄とノブ兄に前後から抱き付かれフラン兄の大きい手も私の頭に乗ってくる。
…ああ、いとおしい。今の私に家族はこの人達しかいない。

「おいでヒナ、刺青彫ってやるよ」


家族にここまで信頼され期待されて、どうして嫌と言えるだろう。

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「信じらないな…たった一人、シガンシナで一晩生き延びたのか…」
「すっげえええええ!久々に滾ったんだけど!ねえねえ君変わった巨人とか見てブベッ!!」
「お前は黙ってろクソ眼鏡」

仮説を立ててみた。
それぞれ違う世界にいた私とみんなが、どうしてこの世界に降り立ったのか。
そしてみんなは1年程で帰ったのに、私は4年経っても変わりがない理由を。

役目があるんだと思う。
みんなはそれを果たしたから帰って、私はまだだから残っている。
もしみんなの役目が、私に念能力を教える事だったとしたら…
――私の役目はきっと、この能力を使ってこの世界で何かをなし得る事なんだろう。
どちらにしてもこんな危険な世界のままでは、みんなを出迎えられない。

「そのエンブレム、訓練兵か。名は何だ」

貴方達に応えるためなら、私はどんな兵士にでもなろう。
冷酷でも、凶暴でも、狡猾でも、それでも生き抜いて貴方達に会おう。
貴方達と並んで立つに相応しい盗賊、蜘蛛になるための踏み台がここにはある。
まずは目障りなあのデカブツ共から刈り取ってやる。

「巨人掃討班第21班、ヒナ」


“欲しいものは奪え”
その教えを基に、私は私の自由を奪い取ってみせる。

この命は――この心臓は、貴方達のために在るのだから。



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この小説は以前ピクシブにてアップしていたものですが、やはり夢小説なので名前変換できる所で連載することにしました。
ピクシブアカウントに心当たりのある方、そのまま知らないフリをして下さると助かります(笑)


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