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- ナノ -

昔々あるところに、

そこは、鳥籠の中だった。
光の届かない、鳥籠の奥底だった。

ある日、一匹の蜘蛛が生まれた。
12本の脚がある、蜘蛛が生まれた。



―841-845―



第99期解散式

授業サボってばっかだったからドキドキしてたけど、無事合格できてしかも10位に滑り込むという奇跡が起きた。
いや、憲兵団に興味はない。選択肢が多い方がお得だなーって思っただけ。
同期の何人かに「何でてめえみたいな奴が」って顔で睨まれたけど、弱っちいお前らが悪いよね?
まあ確かに素人相手に念を使ったのは申し訳ないと思う。でもそうでもしないと念能力者が一人もいないこの世界で念の練習できないし。
お陰様で対人格闘は男子差し置いてぶっちぎり1位だし、立体機動でも模型巨人の項どころか首まで叩き斬ってしまって教官に加減しろって怒られるほどだった。
サボってた分カバーできる程実力があったってことだね。私すごい!

「おいそこの訓練兵共、ぐずぐずするな!固定砲の清掃くらいとっとと済ませろ!」
「「は、はい!」」
「うっす」

そんなすごい私は今、ウォール・マリアの上の固定砲を磨いております。
「先輩だからって押し付けてんじゃねーよ」ってぼやいたそこの同期A、同感だ。
あの野郎、後で財布スッてやるから覚えてろ。未来の盗賊団に教わったスリの技術ナメんなよ?
みんなと離れてから3年。念の基礎はバッチリだけど、まだどういう能力にするか決まってない。
さらに大変なことに、特質系なんだよね私!水見式やったら葉っぱが消えちゃった。
みんなすごいって誉めてくれたけど技イメージしにくいから大変なんだよね。
でもいい加減考えないと…みんな盗賊になるんならそれに役立つ能力にしたいなぁ。それで尚且つこの世界でも使えるようにしたいし。
ああっ、あと希望の兵団も早く決めないと。今日調査兵団が壁外から帰って来たから、振り分けの日までもうすぐだ。
やっぱり調査兵団かなぁ。変人が多いらしいから嫌なんだけど…憲兵団は政治の仕事めんどくさそうだし、駐屯兵団は壁の補強とか退屈しそうだし。

あー早くみんなのところに行きたいなー。昼間はゴロゴロするか念の修行して、夜になったらお宝盗みに街を走る。みんなとならきっと毎日楽しいだろうなー。
絶対迎えに来るって言ってくれたけど、どうやったらみんなの世界に行けるんだろう。それっぽい書籍を探したけどやっぱり見つからなくて。
あるとしたらきっと一般人閲覧禁止の書庫なんだろうな。何で壁外に興味持たせたくないんだろう?
壁外に行きたいって人が増えて、巨人討伐に協力する人も増えたら、人類の居住区はもっと広がるかもしれないのに。
そもそも壁が三重あったところで、この中が絶対安全って決まったわけじゃないだろうに…

そう思った時だった。


―ドオオォォン!!!

「!?」

始めに閃光。次いで耳を劈く轟音。
雷とも爆弾とも違うその音と一緒に来た、地震のような大きな揺れ。
周りの物や私たち人間までも10センチ以上浮いて、危うく壁の上から落ちそうになる人までいた。
「地震か?」って周りは騒ぐけどこれは違うような気がした。全然詳しくないけど、確か地震は地下のプレート?の活動の関係で横に揺れるはず。今のは縦だ。
しかも地面が揺れてるというよりも、上から何か大きなものが地面に叩き付けられた感じがする。
それにさっきの閃光は何なんだろう…

「お、おい…シガンシナ区の方から煙が出てるぞ…!」
「何だ、固定砲の暴発か?」

いやいや、暴発くらいじゃマリアの壁まであんな爆音届かないでしょ。
望遠鏡なんかないから目を"凝"で覆う。遠くのものが拡大するわけじゃないけど、視力が上がったみたいにクリアに見える。
そのままシガンシナ区の方を向くと信じられないものが見えた。

――確か巨人って、最大25メートルくらいじゃなかったっけ?
「……おい……う、嘘だろ…?」

――何で壁の上に、手ぇ乗っけられるの?
「…あ……あれって、まさか……」

やがて、普通の視力でも見えるくらい大きなそれが、壁を越えて姿を現した。
何人の人間が違う場所で、同じ言葉を、同じタイミングで漏らしただろう。

「巨人だ…!」


その日、私は初めて知った。
奴らに支配されていた恐怖を。
鳥籠の中に囚われていた屈辱を…


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