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ウェンディの恋バナ

今から十年以上前、人類に新たな天敵が現れた。それが怪人である。
出現当初彼らと人類の間には大した力の差はなく、暴力団や危険生物と同じ対処がなされていた。
しかし怪人の力は年々狂暴化・悪質化していき、常人の手には追い付かず人口は激減の一途を辿っている。
そこで3年前、怪人や犯罪者などあらゆる悪を掃討する新たな組織「ヒーロー協会」が設立されたのだった。



―2015.09-10―



ぷーん。ぷーん。ぷーん。べし。

蚊取り線香を探しながら頬っぺたを叩く。くそー逃がしたし、蚊取り線香ないし。
残暑でまだ蚊が活発なのかと思ってたら、ニュース曰くそれだけじゃないらしい。何だよ大量発生って、家畜がミイラ化とか最早B級映画ものじゃんかよ。隣の住人も相当苦労してたらしい。どんな道具を使ったか知らないが、さっきまでバンバン強烈な叩く音が鳴っていた。
外に出るなって警報が出てたけど、蚊取り線香買いに行かないと既にこの部屋いっぱいいるわ。どうせ怪人の仕業だ、見付かっても逃げ切る自信はある。財布をポケットに入れてドアを開けた。

「……あー、今日天気いいっすもんネー」
「曇ってるけど」

そこにいたのはうちの部屋の前を横切ろうとした隣人だった。全裸の。
反応に困って頓珍漢な挨拶が出てツッコまれた。やけに肌色率高いなこの人、ああハゲだからか。
全く、本来なら通報ものの事態だ。私が男の裸でキャーキャー騒ぐ性格じゃない事に感謝してもらいたい…見事に引き締まったボディを拝めて寧ろ眼福ぅ〜とか思ったのは黙っておこう。
それにしても隣人が裸族だったとは知らなかった。この半年、そこそこいい関係を築いていただけにちょっとショック。実はこのハゲ、私の朝のランニング仲間だ。私の全力疾走に笑ってついて来られることから只者じゃないとは思ってたけど、この発想はなかった。

「つかちげーからな、これ怪人の所為」
「大丈夫っすよ、私の弟分も昔よく事故でパン一になってたんで。もしかして同じ怪人の仕業かも」
「フォロー下手だな。何だよ事故でパン一って」

フォローしてねーよ。本当に怪人の所為なら何でお前は無傷なんだよ。
流石は怪人の巣窟、人の寄り付かなくなった街・ゴーストタウン。恐れるべきは怪人よりそこに留まる人間だったということか。まだ半年しか経ってないけど引っ越すべき…?
この隣人との付き合いがまだ浅い私は今の話を信じず、真相を知ったのはそれから数日経ってからだった。


   *  *


壁が崩壊した。
いや大昔のあの事件のことではなく、我が家の部屋の壁が。

「くぅるぁぁあああクソハゲエエエエ!!人ん家に何してくれとんじゃぁアアア!!」

ガッタガタになったサッシに手をかけ、ベランダから下にいる連中に叫んだ。
ちょっとトイレに行ってた隙に天井に穴が空いて壁が半分なくなるなんて誰が想像するか。ああそっかゴーストタウンだもんな。どんな怪人が強襲して来てもおかしくないよなちくしょう。
外でまだ轟音が鳴り続けてるから見下ろしてみたら、案の定見覚えのあるハゲが。他にはゴツイ腕のロボッ子と、これまたゴツイ鎧を着たゴリラ。怒号に反応して全員が一斉に私を見た。周りの建物は瓦礫の山。そこに転がる輪切りになってる人外と、上半身が無くなって内臓が見えてる人外。何の特撮現場だよ。

「いい加減にしろよお前!露出狂の次は破壊魔か!ライフラインはタダでも修繕費はタダじゃねーんですけど!」
「俺じゃねーよ!怪人が、」
「何でもかんでも怪人の所為にしやがって!アレか!?かーいーじーんーのーせいなのねそうなのねっ♪ってか!?」
「何の歌だよ!?」

知らねーのかよ。確かに一人暮らしの成人男性が見てても嫌だけど。
ロボッ子が睨んできたりゴリラの頭からアンテナが生えたりしてたが無視だ。
ついでに何処にいたのか、ハト頭ムキムキの化け物が「貴様も進化の家n」とか言って飛んで来た。が、これも無視だ。ついでに頭と胴体をサヨナラさせてやろう。
右手にオーラを集中させてハト頭に向けた。

「だから本当だって!」


その瞬間、ゴパァァンと強烈な破裂音。

「うちの天井もこいつらがやったの!」

破裂した。ハト怪人の上半身が。
びちゃびちゃと怪人の血やら肉片やらが降ってくる。
怪人の下半身の後ろから見えるのは、こっちに拳を向けた状態で話しかけてくるハゲ。まるで風船を割った子供みたいなゆるっとした顔。けど私の目が可笑しくなければこの男、3階のベランダまで軽々跳躍し怪人をワンパンで肉塊にした。すぐに拳を"凝"で見てみたけど、何も纏ってる様子はない。完全な素手だ。
…常人の成せる業じゃない。いや私も常人じゃないけど、私の知ってる実力者達の能力より遥か上の何かを感じる。

ハゲが何か言うのも聞かずベランダの窓を閉め、血を被った顔を洗いに洗面所へ向かう。目の前で起きた光景が未だに呑み込みきれない。飛び散った怪人の血で全身真っ赤っていうのも、思考が上手く働かない原因の一つかもしれない。とにかく古い仲間の一人に修繕の職人がいたから、壁を直してもらえるよう電話をかける…今日寝る時は風通りがよさそうだ。
瓦礫が散乱した部屋と血塗れのベランダの片付けは予想以上に時間がかかって、気付けばスーパーの営業時間が過ぎていた。特売日だったのに、今日は厄日か。



(先生!誰ですかあの失礼な女は!?)
(隣の部屋に住んでる奴。時々一緒に走り込みするんだけど、結構速いんだよなー)


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