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おしまいはおあずけ

今から二千と百年以上前、人類にある天敵が現れた。
彼らと人類の間には圧倒的な力の差が存在し、たちまち人類は絶滅の危機を迎えた。
生き残った人類は「マリア」「ローゼ」「シーナ」の3つの壁を築き、そこで百年の平和を実現させた。
しかし845年、突如現れた超大型巨人及び鎧の巨人によって、全ての日常が壁と共に破壊された。

855年、シーナの壁を破った巨人と人類の兵器化を企てる中央勢力、そして人類の自由を掲げる調査兵団一派の三つ巴の戦闘が繰り広げられた。
政府も兵士も多くの死者を出したこの戦闘は、一人の少年の覚醒と強い願いにより終戦を迎え、百年に続く戦いにも終止符を打った。
世界から巨人は消え去り、生き残った人類は皆自由を求め壁の外へと旅立っていった。

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―――――

―ものすごい轟音と揺れが続いています!!突如A市を襲った大爆発は尚も規模を拡大させ町全体がまるで――
「…行くか」

砂嵐になったテレビを前に、俺は立ち上がった。
今回の相手は久々に期待できそうだ。

ここ数年、人間社会を襲う怪人・怪物が増加し続けている。
そんな奴らをブッ飛ばすのがヒーロー。俺はそれを趣味でやっている。
ヒーロースーツに着替えて外に出る。隣の住人は今日も外出する気配はない。
あいつ、どうやって生活してるんだ…

轟音が聞こえる場所まで走っていくと、今にも子供を握り潰そうとしている怪人が。
とりあえず子供を助けて怪人に向き合うと決め台詞を言う。何者だって聞かれたし。
怪人の方は聞いてもいないのに自分の身の上を長々と語りだした。正直言って興味がない。
俺のことは適当と一蹴したくせに自分は長ったらしく喋るそいつに、イラッと来て軽くグーパンした。
そう、軽く。特に力を籠めたわけじゃない。なのに、

「ぐっはあああああああああああああああああ」

一瞬にして肉塊になった。
ボトボトと肉片が降る中、自分の拳に目を遣る。
――……またワンパンで終わっちまった。

「くそったれぇええええええええええええ!!」

雲一つない青空に、俺の渾身のシャウトが虚しく広がった。


   *  *


―ものすごい轟音と揺れが続いています!!突如A市を襲った大爆発は尚も規模を拡大させ町全体がまるで――
「…まっず」

砂嵐になったテレビを前に、私は立ち上がった。
やっぱトーストの具に納豆はないわ。

ヒーローなんてアニメや漫画だけの存在だったものが、今や立派な職業になっている。
怪人なら私も倒せるけどヒーローになる気はない。だって上からあれこれ命令されるのが嫌だ。
そう言えば隣の住人もヒーローやってるらしいが、趣味止まりで登録する気配はない。
あいつ、どうやって生活してるんだ…

この激安マンションに引っ越してから約半年。
お金はネットでちょこちょこと稼いでるから、何も仕事がない日というのが多々ある。
一人暮らしだと料理をする気にもならなくて、仕送りやスーパーの惣菜で軽く済ませている。
で、前に先輩から「意外といける」って聞いて納豆トーストを作ってみたけど、チーズとかないと無理だわ。臭いがキツい。
納豆を別皿に移してパンをそのまま齧る…納豆臭やべえ。最初から別で食べればよかった。

―ドッゴォォン…

遠くの方で何かが爆発する音が聞こえる。
テレビを見ると速報で「怪人、謎の自爆!」とテロップが流れ、既に違う番組が放送されていた。
町壊すだけ壊して自爆とかマジ迷惑だな、なんて思いながら納豆も完食。

「ひー、まー、だー、なー…♪」

誰もいない部屋に、私のしょぼい歌が虚しく広がった。


   *  *


どんな敵もワンパンで片付く刺激のない毎日。
独りの寂しさを埋めるだけのぐうたらな毎日。

これが俺の、
これが私の、

つまらない日常。



―2015―


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