白雪 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

4


巡回組の役目は、市中見廻りの他に警察庁への状況伝達もあった。鬼兵隊の船が出た場所に、幕府の援軍を要請するからだ。
屯所からも目撃情報のあった場所からも離れた所なら冷静に判断が下せるだろうという、京都の策だった。
ところがどっこい、肝心の鬼兵隊が一向に現れない。港も屯所も、全く異常無し。
京都達が出発してから既に五時間が経ち、江戸の空は夜に包まれていた。数少ない星が、濁った黒に散りばめられている。

「暗くなるのを待ってたんでしょうか…?」
「可能性はあるな。吉村、此処は他の奴等に任せて、私達はかぶき町に向かうぞ」

ハンドルを握り直す部下の隣で、京都は他の仲間に連絡すべく無線機に手を伸ばした。
その時だった。

―ズガガガガガガガ!!

凄まじい発砲音が響き、弾丸の雨がパトカーに降り注いだ。
フロントガラスが粉々に砕け散り、車の屋根も蜂の巣の如く無数の穴が出来上がる。
街灯も真選組の御用の提灯も打ち抜かれ、車のライトだけが廃ビルを照らしていた。
咄嗟に席の下に避難したため2人は無事だったが、圧倒的に不利な状況に立たされていた。
いつの間にか数十人もの浪士達に囲まれていたのだ。
そしてビルの屋上に立っていたのは――

「ククッ、こうして顔合わせるのァ初めてだな。真選組、新参謀さんよォ…」

紫がかった黒髪に緑の眼、煙管を手に持ち薄笑いを浮かべる――


「…高杉、晋助…!」
「まんまと引っ掛かってくれたぜ。近藤も、土方も、お前さんもなァ…」
「…狙いは局長でも幕府でもなく、私だと言うのか…?」

月が出て、高杉の着物の蝶が金色に輝く。
風が吹き、京都の黒い髪と隊服が緩やかに宙を舞った。

「参謀さんよォ、お前自分が俺達攘夷浪士の間で何て呼ばれてるか知らねェか?」

高杉は一旦そこで言葉を区切り、煙管に口を付ける。
異名など知らないし、興味も無い。京都は黙って次の言葉を待った。
彼の唇から零れた煙が、風に乗って消えていった。

「“戦場の白雪”」

戦場には場違いな程美しく、白い雪。
仲間を勇気づけ、敵を恐怖に陥れる雪崩。放たれる剣撃は吹雪の如く、鋭く凄まじい。
白い肌に血を浴び黒髪を靡かせたその姿は、さながら戦場に立つ白雪姫。

随分まんまな名前を付けられたな、と京都は人事のように軽く溜息を吐いた。
静かに吉村とアイコンタクトをとる。これ以上世間話をするつもりはない。

「遺言はそれだけか高杉?」
「おめーこそ、遺言はナシでいいのか?」
「心配いらない。連絡は既にとってある」
「?…ほう…」

京都が懐から取り出したのは、発信機付きの盗聴器。隠密活動用のそれは、京都の選んだ護身用である。
遠くから聞こえるサイレンの音。土方勢の到着のようだ。
瞬時に、京都は高杉に向けてバズーカを放った。
辺りに爆音と煙が生じる。それに乗じて、京都と吉村は一気に走りだした。

「一人残らず討ち取れェェエ!!」

土方の掛け声を合図に、黒い集団が一斉に斬り掛かった。銀の雨風が、幾つもの赤い花を咲かせる。
京都も隊士達に混じって刀を振るっていたが、ふとある事に気付いた。
敵方は皆一様に自分を狙って攻めて来ている。他に隙を作りそうで一見無謀な戦法だが、京都一人には効果抜群だ。
白兵戦はともかく、遠方からの集中攻撃は厄介である。
何とか躱しながら銃撃隊に手榴弾を投げつけたその時、京都の脹脛を何かが擦った。
弾が足を少し抉っている。思わずその場に膝をついた。見上げると、拳銃を握った隻眼の男。

「まだ分かんねーのか?俺の狙いがお前だって事…」

高杉の周りに銃撃隊が並んだ。
彼の口角が美しく三日月を作る。遠くの方で自分の名前を呼ぶ仲間の声が聞こえた。

「あばよ…鳶尾京都――」


ああ、もう終わりか…。死ぬ前にもう一度、兄上に会いたかったな…。
銀時達ともきちんと挨拶していない。もっと一緒に甘味処に行きたかった。
ミツバ殿には謝らなければいけないな…約束を破ってしまった。
沖田、山崎のことはもう少し優しく取り扱ってやってくれ。
局長と篠原は泣いてくれるだろうか?副長、後は頼んだぞ。
一際大きな筒がこっちを向いた。全ては、一瞬で終わりそうだ。


さようなら、兄上。
さようなら、ミツバ殿。
さようなら、銀時。
さようなら、局長。
さようなら、副長。
さようなら、沖田。
さようなら、みんな。

そして…――


さらばだ―――鳶尾京都…


――――――――――
―――――――
―――――

「………ん?」
「どうかしましたか?」
「…今、何か大きな音しなった?」
「?いえ、特には…」
「どっかで花火やってんのかもな!」
「この時期に花火な訳ねーだろバカ!」
「でもお前いつも持ってんじゃねーか、花火」
「ちげーって言ってんだろーがアアア!!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて!」



NEXT

銃持ってる高杉とか超違和感。けど史実の高杉様は持ってらっしゃったからよし(笑)
ルキアちゃんの古臭い話し方に惚れたのがきっかけです。

prev / next
[一覧へ]