白雪 | ナノ
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戦場の白雪、世に憚る


ただの暇潰しで外へ出ただけなのだが…随分と面白い奴に出会えたもんだ。

この所ずっと仕事漬けで、漸くできた休憩時間。特に何もする事はなかったため、街をぶらりと歩いてみようと思い立った。昼時なため、何処の店も大して空いていない。混んでいる場所は避けたい。適当に何か買って帰るか。
そう思い付いたところで聞こえてきた一発の銃声。聞こえた先は一軒の上品そうな喫茶店。絵に描いたような強盗の男が7・8人、銃を手にして何か叫んでいた。
態々店に入って助けてやる程善人でもない自分は、その様子を暫く傍観していた。
そこへ視界に飛び込んできた、一人の少女。
たかだかケーキ一つ台無しになっただけで随分な怒り様。まるでチンピラだ。
だが問題はそこではない。銃を持った大の男数人に、彼女はたった数本の銀食器で応戦したのだ。しかも、彼女が投げたそれらが怖いくらいに当たるのだ。ジャックナイフを振り翳されてもティースプーンで受け止める始末。
更に彼女は頗る動体視力な上に足も速い。成す術もなく、強盗は無様な姿で地に伏す事になった。
…面白ェ。
今や再び席に着いてケーキを堪能している少女。見たところ東洋人の顔だが、イタリア語は話せていたから問題ないだろう。
あれは一般人の動きではない。彼女は何者なんだろう?どのくらい強いのだろう?会って話がしてみたい。彼女への好奇心が人混みへの嫌悪感に勝ち、平穏を取り戻した喫茶店に足を運んだ。

「Ciao」
「?」

ケーキを台無しにされた怒りがまだ収まっていないのか、眉間に皺が寄ったままの少女。
見知らぬ人物に行き成り声を掛けられ、目に見えて警戒している。口の傍のクリームの所為で威力は皆無だが。
今回自分は話がしたいだけなのだ。警戒を解くべく、なるべく落ち着いた口調で少女に話し掛けた。

『よぉ、向かいに座っていいかぁ"?何処も満席で空いてねぇんだぁ』



戦場の白雪、世に憚る



懐かしい事を思い出させてくれる男に出会ったものだ。
下衆共の騒ぎを鎮めて5・6分経った頃、一人の男が自分に相席を頼んできた。
あの時は自分が相席にしてもらった側だったが、場所が喫茶店ともなると自然と銀髪の友人を思い出す。
そこで、ふと目の前に座る男を見遣って気が付いた。彼の髪は、自分の友人と同じ眩い銀髪だ。更にその男は自分の好敵手と同じ腰まである長髪で、自分の上司と同じ鋭い目付きをしている。
苛付いているところを自然と相席を許したのはこれらが原因かもしれない。

『貴様、私に何の用だ?さっきの騒ぎの関連か?』
『おう、店の外から少しだけ見せてもらったぜぇ。いい動きするなぁ"』
『人の災難を見世物のように…腕に覚えがあるだけだ』
『ほぉ?お前、普段何してるんだ?』
『…何を期待してるか知らんが、私は一般の女子中学生だ。三つの頃から竹刀を握っていて経験があるだけだ』
『一般の女子中生があんな正確に物投げられるかよ』
『私は投げられるんだ』

押し問答を繰り返していたが、暫くすると沈黙が降りた。目の前の男は、未だ自分を舐めるように見詰めている。
探りを入れている事を隠しもしない目付きに居心地が悪くなるが、何もされない内は無視を決め込むつもりだ。
数分後、男はエスプレッソを啜ると京都に問うた。

『……お前、名前は?』
『…人に名を聞く際は、先に己が名乗るのが礼儀だろう』
『固ェ奴だな…――俺の名は“プライド”だ』

一言で解った――これは偽名だ。
この男は自分に本名を明かす気はないのだ。この男は偽名を使わざるを得ない立場の男なのだ。
それを自分に暗に示して、自分がそれを理解できているかどうか試しているのだ。
根拠はない。ただ何となく、彼のギラついた瞳がそれを物語っているような気がした。
理解してしまった以上、何を言っても彼の思う壺だろう。ならば下手に考えない方がいい。

『…そうか、私は“ミツバ”と言う。よろしくプライド』
『…おう、よろしくミツバ』

口を突いて出てきた偽名。恐らく相手はすぐにそれが嘘だと気付き、自分が“そちら側の人間”だと判断するだろう。まぁ、飽くまで恐らくの話だが。
それからは取り留めのない話ばかりだった。日本の学校生活はどうだとか、イタリアの町並みはどうだとか。
どちらからも探りを入れる話は一切しない。お互いに暇潰しのような内容の会話を繰り返した。
しかし、京都の部活の話になったその時、プライドの目付きが変わった。

『ほぉ、お前剣やってんのかぁ"。道理でいい動きするわけだ』
『まだ引き摺っていたか…随分興味を持つな。剣道が好きなのか?』
『俺がやってたのはフェンシングだがなぁ。剣道から教わったもんもあるぜ。お陰で随分強くなった』
『……自信家だな』
『そりゃお前もだろ。3つから始めてんだ、自分で自分は強ェって言い切れるだろぉ?』
「………」
『どうだ?』

ふと、並盛の秩序を名乗るあの風紀委員長を思い出した。この男はきっと、自分の強さを探っていたのだろう。
強さを求め、飢える肉食獣。あの少年によく似ている。だがやはり、何処か違うところも感じる。
静かに獲物を吟味する少年とは違う、見付けた獲物は一つ残らず手に入れる獰猛さ。己の力を証明するように徹底的に咬み殺す少年とは違う、次から次へと食い千切っていく荒々しさ。
全て根拠のない勘だったが、そうやってこの男はたくさんの人間を手に掛けてきたんだと感じた。

だが自分としては…そんなものは糞食らえだった。

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