白雪 | ナノ
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高い天井。光の反射で煌めくシャンデリア。汚れ一つない窓。
真選組屯所など足元どころかその影にすら及ばない造りに、京都はずっと感動しっぱなしだった。
それも上品さに満ちた造りだ。江戸の天人の大使館よりも高級なのではないだろうか?
これまた上等な服装をした使用人が荷物をさり気なく預かり、部下らしき男が案内にとやって来た。
よっぽど間抜けな顔をしていたのか、ビゾラは部屋に向かう途中ずっと喉を鳴らして笑っていた。

「9代目、ビゾラ様と鳶尾様をお連れしました」
「どうぞ、入っておくれ」
「失礼します」

一際厳かな造りの扉の前で男が一礼をする。どうやら此処がドン・ボンゴレの部屋のようだ。
返事が返って来たところで男が扉を開けた。慣れたように入るビゾラに、京都もそれに倣った。

「久し振りだねビゾラ。手紙が届いた時は本当に安心したよ」
「ご心配をお掛けしました。お元気そうで何よりです、9代目」
「また会えて嬉しいよ…そして、君は初めましてだね…?」
「!お初にお目に掛かります。鳶尾京都と申します」
「私はティモッテオ。どうぞ、座っておくれ」

小さく噴き出すビゾラは睨むだけに留めた。緊張したのではなく、拍子抜けだったのだ。
マフィアのボスなんて言うものだから厳つい体格の大男かと思ったが、寧ろ華奢な老人だ。
身長は京都よりは高いがビゾラに比べるとずっと低い(ビゾラが長身というのもあるが)。
しかもその老人はスーツすら着ておらず、Tシャツに軍手という姿。農夫と言われた方が納得がいく格好だ。

「ああ、こんな姿で申し訳ない。趣味でトマトを植えていてね。庭から戻って来たばかりなのだよ」
「はぁ……」

長椅子にビゾラと二人、ティモッテオと向かい合うように腰掛ける。コーヒーの香りが部屋を漂った。
彼はリボーンからの便りで京都の事を大体は把握しているらしい。そして、今回の訪問の目的も。

「イタリアで鍛え直したい、ということだったね…?」
「沢田達と違って私は元武装警察、マフィアに近しい仕事をしていた人間です。
 大マフィアの一員として迎えられたからには、この鈍った体を一刻も早く戦闘用に戻したい。抗争を嫌う貴方に私を戦の渦中に放り込めとは言いませんが、戦闘部隊のような力のある人と手合わせがしたい。何卒お力を」

その言葉を聞いて、苦々しげに眉を寄せるビゾラと悲しそうに眉を下げるティモッテオ。
しかしそんな二人の顔は、頭を下げている京都には見えなかった。

「…承知致しました。そのお役目、私がお勤め致しましょう」
「ビゾラ…?」
「私自身興味があります。こんな異国の地で彼女がどれほど成長できるのか、私のこの目で見てみたい」
「奉公先にはどうする気だ?」
「御頭首様はこちらを優先してよいと仰ってくれています。そのお言葉に甘えさせてもらいましょう。私にお気遣いなさるのなら、少しでも早くボンゴレを理解されることです」
「…上等だ」
「ありがとうビゾラ…鳶尾さん、どうぞ娘と仲良くやっておくれ」
「光栄です……………――“娘”?」

下げた頭を思わず勢いよく上げた。「言ってなかったっけ?」と首を傾げるビゾラと、にこにこ笑うティモッテオ。
その顔のまま言われた「ビゾラは女の子だよ」という言葉に、京都が大声を上げるまで後3秒。


   *  *


「ホラホラどうした?さっきから全然当たってねーぞ」
「…そう言う、お前はずっ、とっ防戦、一線だなっ!」
「おうおう、息も上がってら。こりゃ本格的に鈍ってんねェ」

ビゾラとの手合わせを始めて3時間。肩で息をする京都に対して、彼女は汗一つ掻いていない。
ヒラリヒラリと逃げるビゾラを忌々しげに睨む。だが、苛々の理由はそれだけではない。

「聞い、てないぞ!お前がっ…手品師だなんて!」
「奇術師だ。ンな安っぽい言い方すんな」

ビゾラの戦法は京都の知識で到底対応できるものではなかった。
斬り掛かろうとすればマントを翻して消え、京都の背後に現れる。例の弓矢で遠距離戦法を試みても、ハンカチで矢を包んだかと思うと薔薇の花に換えてしまう。
そんな魔術めいたものばかりかと思いきや、ステッキやトランプを使って攻撃らしい攻撃も仕掛けてくる。
実に先読みができない戦術なのだ。

「くっそ、なんなんだ…マントの中は四次元か何かか…?」
「タネが解っちまったらショーにならねーだろうが。おら、昼飯まで後一時間だ!」
「…お前本当に女か?」

敬語を止めろと言った途端この口調。髪型や体型も相まって、彼女はどう見ても男にしか見えない。
ホスト顔負けの端正な顔を意地悪く歪ませて余裕そうに挑発するものだから、腹が立って仕様がない。
だが結局この一時間後も、京都はビゾラから一本も奪う事はできなかった。

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