▽ 2
「攫われた?定春君が?」
「そうアル。私もう旅行なんて楽しめそうにないヨ」
「だからババァに預けとけって言ったんだよ。もう台無しじゃねーか、旅行が」
「台無しなのはお前らの人間性だよ」
「(全くや)」
船が宇宙に出てから数秒後。
「連れて来た筈の定春が何者か(恭には犯人が分かっていたが)に攫われた」と声高に話す神楽と、それを軽く流す銀時。
会話の間にも、食事をする手と口は止まる事を知らない。会話内容にしては悲観性が微塵も感じられない。
2人の様子に新八は冷静にツッコみ、恭も心の中で冷ややかな視線を送っていた。
「だって定春だけ残していくの可哀そうネ!銀ちゃんは定春が可愛くないアルか!?」
「…神楽ちゃん、食べるか喋るかのどっちかにしよ、行儀悪いから」
「旅先でギャーギャー喚くんじゃねーよ。あーあ、興ざめだ。もう帰るか?」
「(しっかり物食ってるお前が言うな)…銀時さん、私探してきます。もしかしたらここに――」
―皆様、よろしければ左側の窓をご覧になって下さい。あれが太陽系で最も美しい星とされる、我らが母なる星、地球です。
「わ〜綺麗だ〜」
「ああ…」
「きっちりエンジョイしてんじゃねーか!…ってあれ?…恭さん?」
「……!あ、ごめん新八君、ボーッとしてた。定春君探しに行くわ」
「(今絶対見惚れてたな…)僕も一緒に探しま――」
―カチャ
「動くな」
「え?」
突然銃口を突き付けられて見上げてみると、数人の男達が武器を持って立っている。周囲から悲鳴が上がった。
生まれて初めて銃口を向けられ、恭は自分の体から血の気が引くのを感じた。
「…ぎ、銀時さんヤバいです…」
「俺、死んだら宇宙葬にしてもらおっかな、星になれる気がするわ」
「ああ、なれるともさ」
「うぉおおい!ホントに星になっちまうぞ!!」
「オイ貴様ら、何をやっている?我等の話を――」
「ほぁたあああ!!」
―ドカッ! バキッ! ガシャァァン!
恭が瞬きしてる間に、男達は万事屋の3人によって次々に倒れていった。
「恭さん、大丈夫ですか?」
新八に声を掛けられ恭は心の中で助かったと安堵した。しかし一方、出番ナシと言う無力感を感じ複雑な気持ちになる。
それぞれ決めポーズをとる3人を見ながら、一人悶々としていると…
「ふざけやがって、死ねぇぇえ!」
背後に立つもう一人のテロリスト。今正に撃たんとした時、
―ドンッ!!
「あ〜気持ち悪いの〜酔い止めば飲んでくるの忘れたきー、アッハッハッハッ」
後ろのドアが勢い良く開き、男は通路の方へ飛ばされていった。
ドアを開けて入って来たのは、土佐弁を話す茶色い天然パーマの男だった。
船酔いで顔色が悪い上に、頭は白い巨大犬に噛み付かれている。
「定春返すぜおぉぉぉ!」
更に不幸な事に、男は神楽の跳び蹴りをモロに喰らい、頭を床に打ち付けてしまった。
神楽はそのまま定春に擦り寄っていき、恭達3人は倒れた男の方に寄って行った。
サングラスで目は見えない。しかしその顔を見るなり、銀時は少し驚いたような顔をした。
そして恭も、男の姿を見て心を躍らせる。
「!こいつは…」
「(おっ!この人は…っ!)」
「銀さん、知り合い――」
―ドォオオオン!!
大きな爆音がして、船がグラグラと傾き始めた。操舵室で爆発があり、操縦士も全員負傷したという。嫌な不安定さに、誰もが何かに掴まるので精一杯である。
突然銀時は倒れていた男の髪をむんずと掴んで走り出した。恭も慌てて後を追い、新八と神楽もそれに続いた。
「いたたたたた!何じゃー!」
「…銀時さん、もうちょっと優しい連れてき方はないんですか?」
「ない」
「(…私、この人めっちゃ好きやのに…)」
「誰じゃー!?ワシを何処に連れてくがかー?」
「てめー、確か船大好きだったよな?操縦くらいできんだろ?」
「何じゃ?おんし、何でそげな事知っちょうか?あり?どっかで見た……!」
「(会ったその時に気付くやろ、普通…)」
「おおおおお!金時じゃなかか!?おんしゃ、何故こげな所におるがかー?」
「…えーともしもし、“金”じゃなくて“銀”なんですけど…」
「久しぶりじゃのー金時!珍しいとこで会うたもんじゃ!酒じゃ!酒を用意――」
―ダゴンッ!!
せやから忠告したのに…。
顔面を思いっ切り壁に叩き付けられる男を見ながら、恭はそっと溜め息を吐いた。
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