ジイジイと鳴く蝉。サンサンと照り付ける太陽。ジットリとべたつく身体が、余計にムカムカさせる。そんな夏。夏休み。 本当に、後輩たちを妬ましく思う。あんたたちはいいよね、気楽で。私は、夏休みに浮かれてる余裕なんかありゃない。ここが天王山なんだ。塾では夏期講習をぎゅうぎゅうに詰めて、学校ではセンター対策の補習授業も受けて。嫌んなっちゃうね。マジで。何が辛いって、屋外に出ることが1番辛い。だって暑いし。日傘があっても、暑いのには変わりがない。気温、37度とか。私の体温より高いんだけど。しぬ。 摘んでいたスイカバーの棒から、ぽたぽたと薄緑の透明な雫が落ちた。うわ、手がネチャネチャになる。どうせ誰も見てないから、舐めて綺麗にする。溶けやすいアイスはもっと溶けにくくすべき。そういう企業努力が、今のこの国に必要なのよね。ていうか早くバス来い。 学校から塾に行くバスは、あまり冷房が効いていない。酷い話だ。バス停でこんなに暑い思いをしてるのに、少しも涼めないなんて。 ガジガジと、もう何も味がしない棒をかじってみる。深い意味はない。ぼけっと半目でテカテカと光るアスファルトを見てみる。深い意味はない。はあ、と溜息をつく。マジで暑い。凍らせたアクエリを誰か・・・! 「あ、先輩。ちわす」 「・・・よー、影山くん」 エナメルを斜めにかけた、期待のセッターが現れた。ピッチピチの1年生だ。 バレー部でもない私が、なぜ彼と知り合いなのか。それは、私が彼と同中で、及川の悪友やってたからに他ならない。あれはいい時代だった、すごく。 何も考えなくてよかったし、部活を頑張ってたわけでもなかった。だから、高校受験なんて、本当にただのペーパーテストだった。県内で、行けるとこならどこでもよかった。それが今じゃどうよ。大学受験なんて、ノー勉でパスできるほど甘くない。しかも、私が本当にやりたいことってやつを見つけてしまったんだから、尚更手におえない。文字通り、死ぬ気でやらないと。ああ、しんどい。影山くんの若さがしんどい。 「暑そっスね」 「まあねー」 「あの、」 「ん?」 「これ、どうぞ」 差し出されたのは、キンキンに凍ったアクエリだった。王様からのお恵みだ。ありがたや。この恩は一生忘れない。たぶん。なんて呆けていると、頬に冷ややかな衝撃。 「つっめ・・・!こら影山!」 「あ、や、すんません。先輩、死にそうな目してたんで」 「あんたはいっつも一言余計だよ。アクエリ差し出すとこまではガチ王子だったのに」 影山くんからボトルを受け取る。ぷっくらと、少しだけ膨張したボトルに触れると、たちまち体温が低下するのを感じた。 「・・・・・・・・」 「あー、冷たいきもちいー。え、なんか言った?」 「ああ、や、や、なんでもないです!先輩、あんま無理しないで下さいね。じゃ、しつれーしあす!」 ぺたぺた。アクエリのボトルで、軽く首を叩く。 可愛いやつめ。ピッチピチでキラッキラで、まだまだ夏休みが嬉しいなんて思える1年生のくせに。やることはいっちょ前で。 「かっこいーんだから、まったくヤダワア」 及川より?って、そりゃトーゼンでしょ。アイツは顔だけのクソヤローだよ。いやほんとに。 影山くんのために、バレー部の試合がある日だけは、少しだけサボっちゃおうかな。 |