「よっこいしょ」 我ながら年寄りくさいと思いながら立ち上がると、後ろから「うわ、ババクセー」と呆れたような声がした。いいじゃん別に私の勝手じゃんと心の中で舌打ちをする。こいつの存在は感知しなかったことにした。 解せない。授業や必要なとき以外はくのいち教室の誰とも行動を共にせず、かと言って忍たまと一緒にいるわけでもなく、人混みを嫌い、いつも屋根の上でご飯を食べる。明らかに群れからはみ出した私にやたらと絡んでくるこの男が、解せない。 「なんだよー、数少ない友達を無視するのかー?」 「え、友達だったんだ」 「ひっでー」 なぜか勝手に友達認定されていた。これも解せない。いつ何がきっかけでそうなったのか全くもって不明だが、この次屋三之助という男はそのアホ面を私に向けて「俺はお前が好きだしー、お前は俺が嫌いじゃないしー」と若干ズレた発言をして、お天道様を見上げた。 嫌いじゃない。たしかにそうだけど、それもなにか違う気がして、私は空になった食器とお盆を次屋に押し付けた。 「友達なら、これ返しに行くぐらいしてくれるよね」 「あー、うん。まかせろ」 次屋の姿が見えなくなってから、私はとてつもなく後悔した。 そういえば、あいつは救いようのない方向音痴だった。 |