ヴィンセント誕




―……今日は少し特別。


【とくべつ】


「…ごめんヴィンセント、待った?」

「いや…気にするな」


エッジの中心部。

かつてモニュメントのあった場所にヴィンセントとユフィはいた。

ことの発端はユフィのいつものワガママだ。


『明日エッジで待ってるから!!』


突然のメールは何時ものこと。なんでも買い物の約束をティファとしていたがクラウドが休暇を取ったらしい。

前日からエッジ入りしていた
ユフィもクラウドなら…。

と、クラウドの方を
優先するように気を利かせ―…


「ヴィンセントがあたしの買い物に付き合ってくれて助かったよ!!」

…そして現在に至る。


「どこに行くんだ?」

「マテリアショップ!!」


元気いっぱいに飛び跳ねる姿はめずらしい藍色に白い花が映えるワンピース姿だ。

なんでも出掛け際にティファに着替えさせられたらしい。

なんとも嬉しい誤算
…もとい、策略を感じる。

秋とは言え日差しがキツいからだろう。真っ白な鍔のついた帽子を被り、見かけは立派な淑女となっていた。


「なんかいいマテリアないかなぁ〜♪」

荷物持ちよろしく。


くすくす笑う
その姿はまさにユフィそのもの。


それでも
周りの視線が気になるのは周囲の男共と同様に、女らしさを全面に出されて柄にもなく意識してしまっているからだろう。


…まったく。

自分にため息をついたのだが、彼女は全く別の事を思ったらしい。


「…やっぱり。おかしい?」

…そんなことあるか!!

「いや…そんなことはない」


悲しいかな。
口から出る言葉は感情のそれに比べるとずっと少ないのだ。





「あ、おじさん、コレとコレも」

「ほう…それも売るのかね?」

「んー、
もうマスターしたの持ってるしなぁ〜」


「金には困ってないんだろう?」

マスターランクでは無いにしてもかなりのレベルのマテリアを手放そうとするユフィに思わず質問が飛んだ。

元々、仲間内でマテリア所有量、質共に一番であろうユフィにはそれらの金銭的余裕だけでなくWRO本部からの報奨金がかなりの額、振り込まれている筈だ。

いくら彼女に浪費癖があったとしても一生遊べる金額を持ってる筈なのである。

いくらこれからの買い物での資金とは言え…少々の買い物ならそのマテリア1つで事足りる。

「んー、暫くエッジに拠点を移そうかと思ってるんだ」

「ティファの店があるだろう」

「いつまでも
ティファに甘えてらんないよ」


…なる程。
大人になったものだ。


「あー、何?遠い目しちゃってさ〜」

「いや…だがユフィ、その辺の家ならビルごと買い取れる金額だぞ」

荷物は持ってやるが
あんまり量が多いのも困る。


そうボヤくと
ユフィはあははと楽しげに笑った。



なら荷物持ちのヴィンセントさん。

お礼にこのユフィさんが
なんでも買ってあげましょう。



「なんだ…気味の悪い」

「あー、ひっどいなぁ」


2人はマテリアショップを後にしていた。

向かう先は冒険者達がよく立ち寄る保存食や携帯アイテムを扱う店である。


「正当な報酬だと思うんだけどな」

「お前に
これ以上気を使われだしたら終わりだ」

「えー?何それ」


ヴィンセントはふと立ち止まるとユフィに視線を合わせた。


「ティファ相手なら女物の服やら宝飾品の店に立ち寄っただろう」

「へ…?だってヴィンセント、あんな店きらいでしょ?」

「だから私に合わせたんだろう?」

だからそれだけで十分だ。


それだけ言うとユフィははにかんだ。


「優し―!!」

「…言うな」

「欲がない」


(否、欲しいものの形がないだけだ)


仕方ないから弾丸ケースでいいかな?

「ああ…十分だ」






「本当に私の弾丸ケースだけを買ったな」

「えー?保存食とか買ったよ?」

ティファの店に向かう帰り道。

仲良く並ぶ2つの影があった。

「後日、届けてもらうなら
…荷物持ちは要らないだろう」

「だって本当はあたし1人で過ごすつもりだったんだよ?」

「…ああ、そうなるな」


あたし今日
ヴィンセントと過ごせて楽しかったよ。


「……………………………。」

「付き合ってくれてありがと」

「それはこっちの台詞だ」

「え…?」

「なんでもない。…着いたぞ」

「あ、そーだ」


ドアノブに手をかけたユフィは
何かを思いついたらしい。

ちょいちょいと手招きすると、
そっと耳元に唇を寄せて―…


「     」

「――…っ!?」


頬を掠めた柔らかな感触に

頭が真っ白になった。

そして
真っ白な頭のまま店内に放り込まれて…。



「Happy Birthday!!ヴィンセント!」


割れんような喝采が店を包んだ。

♪happy birthday to you♪

♪happy♪birthday♪to♪you♪
♪happy♪birthday♪…


「え…?」

(誕生日、?)

思考が付いていかない。ユフィのせいだ

(…違う。なんだ、この感情は)



その時、
店の暗がりからティファが出てくると、ヴィンセントにだけ聞こえる声で囁いた。


「このケーキはユフィから」

「……?」

「手作りよ?」


♪happy♪birthday♪Dear♪VINCENT♪

♪happy♪birthday♪to♪you♪


「「「「「おめでとー!!」」」」」

「あ…ありがとう」


他に言葉が思いつかず、沈黙する。

ユフィはそれらを見て声を張り上げた


「はーい、ただ寝てた30年飛ばして30歳のヴィンセント、お誕生日おめでと〜!!」


ちなみに。


「甘いの苦手なヴィンセントさんにはクラシックショコラを作ってみました―!!」

「お?
お前でも料理なんてできたのかぁ?」

「うっ…うるさいな、シド!!」

「そうよ?今回の料理は
ほとんどユフィが作ったんだから」

「そうなのか…」

「甘いよクラウド!!あたしの料理は道場の門下生にも定評があるんだぞ?」

「ね…ねぇユフィ。こっちのケーキは?」

「マリン達には苺ショートを作ってみました!!」

「わぁ!!」


なにやら当人そっちのけで
盛り上がる今回の主催者達。


「……いつの間に作ったんだ?」

「朝早くから。それでお昼からはユフィを除くみんなでお店の飾り付けをしたの」

「まさか…」

「そう。ユフィにはヴィンセントの足止めをお願いしたのよ?」


驚いた?そう笑うティファに
ヴィンセントは頷いた。


「あ、それでね。皆からプレゼントもあるんだけど…」

「…いや、もう貰った」


その言葉にティファは苦笑する。

「よっ、色男!!飲んでるか?」

「…シド」

「ヴィンセント、さっきユフィに何か言われてなかったか?」

「クラウド、見てたのか?」

「…偶然な。お陰で向こうでユフィがティファとマリンに捕まってる。」

「…強敵だな」


クラウドの言葉に、内緒話どころか
まさか口付けされました。とも言えず


「なんて言われたんだ?愛の告白かぁ?」
シドの微妙な台詞に笑みを返した。


「フ…秘密だ」


―カタン。


「お…?」

「…え?」



「―…
ユフィ、主賓をほったらかしてどうする」




その後、
仲間たちから贈られた品とはまた別に、
ユフィから贈られた弾丸ケースが、

未だに封を切ることもなく
大切に保管されている事

また、パーティー前に
ユフィに告げられた言葉も


まだ
ヴィンセントしか知らない秘密である。



「ユフィ…さっきは何て言ったんだ?」

「聞こえなかったんならいいよ」

「……」

「…う、生まれてきてくれてありがとう、ヴィンセント……って」

「……………………聞こえない」

「な……///」

「…聞こえないんだ、ユフィ?」


†だからもう一度、何度でも†


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