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 なんの前触れもなく私のスケッチブックが姿を消した。いや本当に。嘘じゃない。
 まって、私そんななくすタイミングなんてあった? ふとした瞬間に、私のスケッチブックがカバンから消えていることに気付いた。

 慌ててカバンの中身を出して確認してみた。………ない。

「Je reve!」

 思わず叫んでしまったじゃないか!! どうしてくれんの!!
 考えられることはひとつ。きっとどっかで落としてしまったのだ。でも、その落とす場面なんてなかっただろう…。何やってるんだい私…。

 海紀も慌てて周りを見渡して、茂みの中とかを探し始めてくれていた。

「ちょっ海紀そっち…」
「ないとは言い切れないでしょ。とりあえず手当り次第探さないと」

 目頭が熱くなる気がしたけどそれを堪えて、私も周りを必死に見渡し始める。
 とりあえず来た道を戻りながら探そう。ということで、来た道をきょろきょろと見渡しながら、がさがさと漁りながら歩く。
 あぁ、千旭と希咲と征良がいれば、見つかるのも早くなったのかもしれないのに…。って、また手持ちに頼りっぱなしにしようとして。ダメだダメだ。
 それに、海紀が必死に一緒に探してくれてるのに。最低だな私!

 軽く頬を叩いて、気合を込める。

 皆と別れる前には確かにあった。ということは、この1時間以内に、どこかにエンジュに落としてたということになる。

 なんで確認しなかったんだい私のバカ!

 ……なんて、自分に怒ってもスケッチブックが謝りながら歩いて出てくるわけもないので、私はまた草むらを掻き分ける。

 海紀あった?
 サクラちゃんこそ見つかった?
 全然。

 なんて会話を何度したことだろうか。
 軽く諦めモードに入ってきてしまった…。

「海紀、もう良いよ…」
「え、でも」
「財布とかだったら諦められないけど、スケッチブックならまた新しく描けばいいし!」

 ね? となるべく笑顔を浮かべてみる。けど、海紀は私の顔を真面目な表情で数秒見つめてから、また草むらを漁り始めた。
 ちょっ、人の話聞いてましたか!?

「ちょっ、ちょっと海紀…!」
「変なところでしおらしくならなくてもいいのに…」

 兎に角、もう少し探してからにしてよ、諦めるの。
 そう言ってくれて、思わず胸が熱くなる。
 小さく頷いて再び探そうと、顔を上げたその時、

「ねぇねぇ、お姉さん」

 不意に私たち意外の声が聞こえた。

「何か困りごと? 良ければ手伝うよ」

 声のしたほうへと振り向けば、水色の髪の可愛い男の子と、イケメンなお兄さんがいました。
 突然の出来事に、思わず口がぽかんと開いてしまう。海紀も顔だけこちらに向けて、少しだけ驚いたような表情をしている。

「なんかさ、馬鹿みたいに草むらをガサガサしててさ、気になっちゃって」

 可愛らしい男の子が笑顔でそう言う。
 い、意外と毒舌だこの子…! だけど可愛いから許される…! 短パンとニーハイとか似合っててすごい。かわいい。
 隣にいるお兄さん…あ、この人あの人だ。さっき店の前にいたイケメンなお兄さん。

「なにか探し物でもしてた?」

 お兄さんがそう問うてくる。
 まって、それに応えるのも大切なんだけれど、私はずっとモヤモヤしてたことがあるんだ…。えっと、このお兄さん…。絶対何かで見た…。
 ん? なにか?

 私は慌ててカバンの中を漁る。そしてとある雑誌を取り出し、とあるページを開いた。

「こ、コンテストに出てたお兄さん!」

 私の叫び声に、目の前の男の子と男性がびっくりした表情をする。それと同時に、海紀が慌てて私の口を彼の手で覆った。

「す、すみません…!」
「え、あ、いやいや気にしないで」

 海紀が代わりにと謝れば、お兄さんは少し眉を下げながら答える。
 も、申し訳ない…。急に叫んでしまって…。

「えっと、すみません急に叫んでしまって…。サクラって言います…」
「僕は海紀」
「俺は漣。サクラちゃんが言ったように、コンテストに出てたよ」
「僕は理央。ねえ青髪のお兄さんさ、ポケモンなんでしょ?」
「あれ? 分かっちゃった?」
 
 海紀は少し驚いた表情をするけど、海紀も君たちもだよね、なんて良いながら笑みを浮かべる。

「僕はマリルなんだ」
「マリルかー。マリルって個性豊かなんだな」

 漣君が笑いながら言う。な、なんだろうマリルはそんな個性豊かなんだろうか。まあでも個性って大切だよね。それで漣君はラプラスで、理央君があのパチリス君だったんだって……!! なんという偶然…!!

 私が感動していると、漣君がところで、と話を切り出す。

「何か困ってたんじゃないの?」

 そこの言葉に、私の動きがフリーズした。

「そ、そうだった…」

 思わず頭を垂れる。
 スケッチブック…。君はどこにいったんだい…。

「探し物でしょ」
「理央君鋭い…。うん、スケッチブック落としちゃって…」

 理央君の鋭い推理に、自分が落としたものをいう。
 さっき、海紀にもう良いとか言ったけど、実はそうではなくて…。やっぱり旅の目的だったから、少しはやっぱり…うん、悲しいし。
 
 すると、目の前の2人は目を見合わせて、漣君が私に何かを差し出した。
 伏せてた顔を上げれば、そこにあったのは……。

「あ、れ」
「これ拾ってたんだけど。君の?」
「わ、私の!!」

 漣君の手から受け取って、私はスケッチブックの中身を確認する。
 うんどう考えても私のだ。
 思わず感動で視界が歪むけど、それをなんとか堪えて、2人に頭を下げた。

「本当にありがとう!」
「あー良かった。荷物減って」
「俺が持ってたよな。まあでも、見つかったなら良かった」
「本当にありがとね」

 理央君が少しいたずらっ子な感じの表情で言うので、思わずくすりと笑みがこぼれた。そんな理央君に漣君がつっこんでて、なんか漣君はお兄さんっぽい、素敵な人(正確にはポケモンだけど)なんだなあって。

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