get(novel) | ナノ
馬鹿猫のことだ、どうせそういうことだろう。と思ってはいたが…やはり予想通りでため息を吐かずにはいられなかった。脱衣所を出てすぐ、視線を上に向ければ当たり前のように佇んでいる薄い仕切り。この仕切りの向こうは女湯でまず間違いはない。


「さーてなまえちゃんと心音ちゃんは何を話しているのかなー」


光の如き速さでお湯をばさーっ!と掛けたと思うと素早く温泉に入り、仕切り付近へ移動するロロ。以前のアイツに戻りつつあることは嬉しいことだが、これは戻らなくても良かったと思う…いや、戻らないほうが良かった。


「ロロさんってあんな方だったのか…まるで殿を見ているようなんだけど…」
「あれが本来のアイツなんだ。悪いな」
「……グレアも苦労してるだろう」
「……まあな」


なぜこんな会話をしているのか訳が分からない。とりあえず俺と美玖も適当に湯を掛けたあとに温泉へと向かうと何やら楽しげな声が聞こえてくるではないか。誰と話しているのか不思議に思いながらそちらを見ると、ロロの隣には蒼みがかった髪色をした見たことのない男と水色の髪の少年。それの少し離れたところに紺色の髪の少年が見えた。


「彼方くん、ヒナリちゃんのこと好きなんでしょう?だったらもっと色んなこと知っておいたほうがいいよ!」
「すっ、すきだけど…っ!すきだけどーっ!」
「ほんと、どんだけウブなの?僕だってこのぐらい平気なのに」
「おい何やってんだ馬鹿猫」


見るからに今にも湯で上がりそうな少年とロロたちの間に割り込めば、企んでいたことを阻止されて残念、というようなあからさまな表情をされた。一体何をしようとしてたのだろうか。……今度こそ予想が外れてくれていたらいいのだが。


「顔真っ赤だけど大丈夫?もう上がったほうがいいんじゃ、」
「だいじょぶ、です…」


口ではそうは言うものの、支える美玖にほぼ寄りかかっているような状態では全く大丈夫には見えない。流石にマズイと思ったのか、蒼い髪の男がざぶざぶとやってきて美玖から少年を引き取ると苦笑いを浮かべる。


「まだ彼方には早かったかな」
「アイツに何か吹き込まれたのか?」
「ううん、違うよ」


漣と僕とロロおにーさんでね、ヒナリとなまえおねーさんたちの会話を聞いててそれを彼方にそっくりそのまま教えてあげただけだよ。
水色の髪の少年が何事もなかったかのような表情でそういった。…まあ、何となく理解はできた。ような気はする。


「理央くん理央くん、」
「新情報?」
「ヒナリちゃんて小柄なのかな?…"意外と胸が大きい"らしい。あと"肌がすべすべ"」
「よーし、あとで彼方に教えてあげようっと」


ロロが全て原因かと思えば。…あの理央という少年、外見とは裏腹にあの馬鹿猫と並べるような性格の持ち主らしい。外見で判断してはいけないという言葉の意味が本当に分かった気がする、なんてしみじみ思っている場合じゃない。とっとと馬鹿猫を風呂からあがらせなければ、なまえはもちろん、ヒナリという子にも迷惑をかけてしまうではないか。


「おいロロ、いい加減、」


とっ捕まえにいこうと一歩、お湯の中で動いた瞬間、何かがすごい勢いで飛んできて咄嗟に横に避けた。理央とロロもそれを避け、今では笑顔で氷りついている。

……はがねのつばさ。誰がやったかなんて、答えなくても分かるだろう。

prev next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -