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「#エロ」のBL小説を読む
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 眉を下げ、悲しそうな顔をしながら迫ってくるなまえに来馬は困惑するばかりだ。なまえと来馬は幼なじみである。来馬はなまえの面倒を幼い頃から見てきた。互いの両親はその様子を可愛らしいと言い、とても軽い調子で二人が一緒になればいいのではないかと考えた。そうすればずっと可愛い二人の組み合わせを見守っていられると。家柄もほどほどにいい者同士だったので、当人たちが気付かない間にも話はどんどん盛り上がっていく。二人は気付かない間に婚約者の関係になっていた。知ったのはつい最近のことである。それを知った際、なまえは来馬が好きだから構わないと言った。しかし来馬は拒絶の意志を示した。そこから結婚に関する話は少し停滞してしまった。
 そして今なまえはその来馬の拒絶について問いつめている。なまえにとって来馬は大好きな人であった。別の何とも思っていない輩のところに嫁に行かされるぐらいだったら家を捨ててもいいとも考えていたので、両親の考えを知ったときはとても喜んだ。二人の間には何の障害がないと思っていたら来馬のこの対応だ。なまえがその気になれば無理矢理くっつくのも難しくはないが、どうせなら来馬の同意を得た上で一緒になりたいのだろう。
「辰也くんは私のこときらいなんだ」
「何でそうなるかなあ……」
「じゃあ結婚しよ?」
 先ほどからこのようなやり取りの繰り返しだ。来馬もなまえのことは大切に思っている。嫌いだなんて思ったことはない。だが結婚となれば考えることがあるのだろう。その考えることが伝わっていない故、なまえがこんな風に迫ることになってしまった。やり取りが繰り返される度になまえの目がだんだんと潤んでくるのに来馬が気付くのはそう遅いことではなかった。今はまだそれもなまえの瞳の中で留められているが、それがいつ溢れてしまうのかわかったものじゃない。今までなまえの色々な表情を見てきたが、泣き顔だけはいつ見てもつらいものだった。来馬はどうしたものか、とため息をつくがそれを拒絶や呆れの意志と受け取ったのだろう。来馬がそれに気付いたときはもう遅い。なまえがなんとかして留めていた涙がついに溢れてしまった。
「やっぱり辰也くんは私のことが嫌で嫌で仕方ないんだあ……!」
 ぼろぼろとなまえの目元から涙がこぼれ落ちる。久々に見たその表情には大分来馬も動揺したのだろう。大きくなった今では考えられないような行動に移っていた。なまえは今来馬の腕の中だ。来馬に抱きしめられてなまえは非常に驚いた。しかし同時に一緒になるのがいやならいっそ突っぱねてくれればいいのにと多少ひねくれたことも考えた。なまえからは来馬の表情は読めず、彼の真意もまったく感じ取ることができない。
「辰也くん、染みになっちゃうよ」
「……なまえが泣きやめばいいんだよ」
「辰也くんが結婚してくれるっていうならいいよ」
「……まだ付き合ってもないじゃん」
 来馬には考えていることがあった。いつなまえに思いを伝えてこの幼なじみの関係を抜け出すべきか。来馬が自分の抱えている感情の正体に気付いたのはなまえよりも早かった。それを乗り越えるきっかけを掴もうと色々考えたのにもかかわらず、突然婚約関係であるということを明かされた。必死に考えてきたことに対しての両親の軽い提案。肝心の彼女は簡単に自分のことを好きだから結婚しよう、そんな風に真っ直ぐにぶつかってきたので困惑してしまったのだ。結婚は早すぎる。来馬が踏むべき段階と考えてる中でもかなり先であった。いきなりそんなものを突きつけられてしまい、思わず怯んでしまったのだ。来馬本人も情けないとは思っている。しかし彼はなまえの涙一つで自分の思考の外にある行動をしてしまった。もう来馬は彼女を突き放すこともできない。このあとも、今は述べる予定ではなかった言葉をなまえへと向けるのだろう。
「……えっと、辰也くん」
「……ごめん、言わせてくれる?」
 顔を赤く染めながらそう述べる来馬に対してなまえはもう拒絶したり、駄々をこねることはなかった。このあとの告白に対して、先ほどの泣き顔とは打って変わって幸せそうな表情を浮かべて意中の彼にめいっぱい抱きつくなまえが居る未来は誰でも容易く思い浮かべることができるだろう。

20140908