text log | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
※奈良坂との再会のつづき

 透くんと会う間柄になれたのはいいのだが、やっぱり空白の時間でできた意識は根強いものがある。いつまで経っても遠慮することがやめられない。その度に透くんに溜息をつかれてしまう。今日もきっと透くんにそうさせてしまうのだろう。
「何故お前は俺のことを陽介等に聞くんだ」
 俺に聞けばいいことだろう。透くんの意見はもっともだ。私たちは再会を果たしてからは連絡先の交換もした。私がその気になればいつだって透くんに連絡することができる。でもいつも何らかのアクションを取るのは透くんからだ。電話も、メールもいつも透くんからやってくる。それに対して私が返事をして物事は進んでいく。透くんはボーダーに所属しているということもあって忙しそうだ。私はそんな透くんに時間を割いてもらうのが申し訳なくて、どうにかできそうなことは米屋くん(なんと透くんと同じチームを組んでいたのだ)とかに聞いたりすることで用事を済ませることがほとんどであった。どうにもできなかった場合は、透くんが連絡を取ってくるまで待っていた。今日も米屋くんに隊でお仕事はあるのかと聞いてみたらそれを見越されてたのか透くんからの伝言を述べられた。私は特に用事もなかったのでそれに了承しようとしたら米屋にそれは苗字が直接伝えろと念を押されてしまったので私は透くんに連絡を取らざるを得なくなった。今日何かあったっけという呟きに、米屋くんは何か言いたげな顔をしていて疑問を抱いたのだが、透くんに会ってやっと思い出すことができた。そこで思い出せても手遅れだったのだが。
 今日は透くんの誕生日だ。最後に祝ったのは何年も前の話だ。だから忘れていました、なんて不機嫌な透くんに言うことはできない。どうしよう、透くんすっごく怖い。誕生日のことで怒っているのか、直接連絡をとらないことで怒っているのか。おそらく、両方なのだろう。申し訳なさ諸々で隣の透くんの顔を見ることができない。
「えっと、ごめんなさい」
「今なまえは何に対して謝っているんだ」
「い、いろいろ謝る点があったので」
 透くんに出会ってから何度目かわからない溜息に気まずくなる。うう、昔っから私は変わらない。いつだって私は透くんを呆れさせてしまうのだ。情けない。こんな私が透くんの隣にいていいのだろうか。マイナスな思考がぐるぐると頭の中を駆けめぐる。唇を噛んで、俯いているとふと上を向かされてしまった。やだ、今変な顔してるのに。
「……お前は俺といても楽しくなさそうだな」
 昔はどんなに疎んでもへらへらと笑っていたのに。今の私は透くんに迷惑だったかもしれない、そう思いこんだだけで何年も会えなくなってしまうような臆病な奴だよ。今はこうして会うことができたけど、何回も会いたいとか言ったらどうかな、とか、何回もメールとかしたらしつこいかなとかどこまでも嫌な方面に考えてしまうのだ。今まで迷惑をかけた分つい遠慮がちになってしまうのだ。今回はその遠慮で透くんの気分を悪くしてしまうなんて、どこまでもだめな奴だというのは自分でもわかっている。あまりの情けなさに、涙までもこぼしてしまいそうだ。
「なまえ、この際お前から連絡してこないのは構わない。その分俺がすればいいだけの話だ」
「は、い」
「それは構わないから、陽介とか他の男にもう頼ったりするな。腹が立つ」
 透くんの発言に自分が石みたいに固くなるのがわかった。あまり賢くない私だけど、透くんの言葉の意味はわかってしまったのだ。いつぞや、本当に小さい頃に透くんと遊んでいた友達に私が抱いた感情と同じ奴だ。透くんも私と同じ感情を抱いたりするんだ。いや、そもそも私たちはある感情を共有していて、今一緒にいるのだから。改めて気づくと、恥ずかしくていっきに顔に熱が走るのがわかった。
「と、とおるくん。わかったよ、これからはがんばって透くんに聞くようにする」
 私の言葉に満足したのか透くんの表情は先ほどと比べると随分柔らかい。そして小さい頃ごくまれにしてくれたときみたいに、頭を撫でてくれた。もう怒ってないのかな、よかった。うれしいけど、髪を梳かれるのは慣れてなくて恥ずかしい。透くんに会う前に身だしなみをきちんと整えといてよかった。このあとは透くんの誕生日を普通に祝うことができそうだ。
「あ、透くん。誕生日プレゼントは何がいいかな。私もバイトしてるからちょっとぐらいならいいものあげられるよ」
 そう提案すると透くんはじいっと私を見つめ出した。あれ、忘れてたの気づかれちゃったかな。そわそわと、でも勘付かれないようにと見つめ返すと透くんの顔が徐々に近づいてくる。え、ちょ、ちょっと待って。
「……これでいい」
 一瞬の出来事ではあったが何をされたかははっきりとわかった。唇と、唇が触れ合うそれだ。透くんを見れば「昔したことがあっただろう」と何ともなさそうに言われた。なに、それ。私覚えてないよ。それに昔と今とじゃ全然重みが違うよ。色々言いたいことはあるはずなのに、間抜けな顔を透くんに向けることしかできない。透くんはそんな私をよそにこの後はどうするかなんて余裕そうに歩き出した。私も呆けている場合ではない。透くんに追いつくべく踏み出した足はいつもより軽い気がした。

20140919