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 化粧品売場は女の子をきらびやかにさせるための物が並んでいるからか、輝いて見える。そこに足を運んだだけで私も素敵な女の子になれたのではないかと錯覚するぐらいだ。ただし、そのきれいにするための物はそこそこに財布にダメージを与えるのも少なくない。ぐるっと売場を眺めて、何とか手が出せる程度の値段のボトルが可愛らしいマニキュアを一つだけ購入してその場を去る。売場を出て初めて自分があの場の香りがうつっていることに気づいた。まあ、家に帰る頃にはほとんど気にならなくなっているだろう。最後にシュークリームを購入し、用事を終えた私は電車に乗り三門市に帰ることにした。
 この後は家に帰る前に幼なじみの駿くんのところに向かう。駿くんは私よりちょっと年が離れているのにもかかわらず懐いていてくれるのが可愛い。可愛いからつい食べ物を与えたくなってしまう。今日の手土産のシュークリームは気に入ってくれるだろうか。電車の中で駿くんに今日そっちに向かうねとメッセージを送れば間もなく待ってると返してくれた。今日は任務はないのだろうか。私としては会えるのは嬉しいことなのだが。シュークリームを潰さないように注意しつつ電車に揺られる。

 駿くんのお家にたどり着き、インターホンを鳴らす。出迎えてくれたのは駿くんだった。
「駿くん」
「なまえちゃん」
 言葉と同時に抱きつかれて受け入れるのが大変だった。衝撃を受けたシュークリームは無事だろうか。駿くん、きみも大きくなったんだからもう少し手加減してほしい。駿くんは中学生になったのにまだやたらとスキンシップが激しい。仮にも女の子相手にこれってどうなのか。いや、私のことを女子として捉えてない上でこれなら少々複雑ではあるが構わないのだが。私に抱きついている駿くんは何か違和感があったのか首を傾げた。
「なまえちゃん、いつもと違う匂いがする」
 心当たりはある。さっき行った化粧品売場だ。試供品をいくつか利用したので自分でも香りがうつっているのがわかる。大分時間も経って薄れたと思ったのだが駿くんには気づかれてしまったようだ。
「さっき化粧品とか見ていたからかなあ」
「ふーん、いつもの匂いの方がいいのに」
 いつもの、ってまるで私がすっごくにおいのする人みたいでちょっとばかりなんだかなあと思う。いつものがいいとか文句を言いつつも駿くんは離れようとはしないし恥ずかしくなってくる。
「それにしてもよくわかったよね」
「わかるよ、だってなまえちゃんのことだもん」
 恥ずかしさを誤魔化すように言ったのにもっと恥ずかしくなってしまった。まっすぐに私を見てくる目がいつものそれじゃなくてつい怯んでしまう。声色もいつものなまえちゃんって無邪気に呼ぶときよりちょっと低いし。ぴしりと固まった私をよそに駿くんはぎゅうぎゅうと私に抱きついて離れようとはしないし一体どうすればいいのだろうか。さっき買ってきたシュークリームはいつになったら食べられるのやら。いくつか疑問は浮かんでくるのだが誰も答えてくれなさそうだ。

20140929