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 カセットコンロにそこまで大きくない鍋を載せる。鍋の中身は四角く切られた豆腐だ。私たちの手元にはポン酢やらがある。今回私たちが食すのは湯豆腐である。なぜ湯豆腐かは、最近気温が低くなったから体を温めるためというのは建前で食べたくなった物の中で一番楽だったのがそれだったからだ。他の人だったら文句を言われていただろうが三輪くんはあまり食べることに興味を示さないため出された物を黙々と食べる。有り難くないと言えば嘘になるのだがそれが時には寂しくなってしまうのでいつかは彼の食べたいというものを作りたいとは思っている。
 そこそこに温められた豆腐を掬い三輪くんに手渡す。三輪くんは受け取ってはくれるもの、表情はさして変わらない。三輪くんが表情を変えるのは近界民に関わったときぐらいだ。いつか私が三輪くんの様々な顔を見られる日は来るのだろうか。……食事の時ぐらい、辛気くさいことを考えるのはやめよう。自分の分の豆腐を取り、それと向かい合う。料理の準備をしていたときには考えつかなかったのだが、私の取り皿にたたずんでいる豆腐からあるものが想像できた。正方形に切られた豆腐。あの、射手がよく使うあれだ。
「アステロイドみたい」
 私の言葉はむなしくも響く。三輪くんは黙々と湯豆腐を食べている。……おそらく出水くんとかがこの場にいたらいい反応をしてくれただろう。むしろ彼だったら先に言い出してたかもしれない。三輪くんはある点に関しては不安定だが他のことに対しては興味すら示さない。でも、めげないんだから。
「じゃあ、あれ。いつぞやキューブ化された諏訪さん」
「どう見ても豆腐だ」
「……はい」
 今度は反応してくれたがバッサリと切られてしまった。つらい。おとなしく食べることに集中しよう。箸で食べやすい大きさにして口に運ぶ。豆腐がメインということもあっていつものよりいいのを買ったのだがそれだけあって美味しい。やわらかくてあったかい。……三輪くんとは全然違う。我ながら失礼なたとえをしたとは思うが先ほどむなしい気持ちにさせられたからささやかな仕返しだ。口にして言うことはできないが。
「温かいな」
 湯気が上る鍋の向こう側でぼそりと三輪くんが呟く。一瞬私の心の中を見透かされたのではないかと思ったのだがそうではないみたいで安心した。でも驚いた。三輪くんは私がたまにご飯を作りに来ても、それに対して何か言うことなんてなかった。初めて言葉を引きだしたのが手抜きというかほぼ素材の湯豆腐というのが少しばかり残念ではあるが。
 今度は私が一生懸命作ったもので何か言ってもらうことにしよう。そんな決意を胸に秘めつつ、鍋の中でゆらゆらと揺れる湯豆腐をつついた。

20141002