text log | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
 手嶋くんの隣の席になってそろそろ三ヶ月。いつものように教室にやってきた手嶋くんに朝の挨拶をする。今日の一限はなんだったっけなあ。
 チャイムが鳴りホームルームが始まる。担任の先生が取る出席に適当に返事をする。ぼんやりとホームルームの内容を聞いていたらスルーできない先生の発言が耳に入ってきた。
「今日は席替えをするからな」
 放課後やるからなーと、先生はこの間も用いたくじを入れる箱をちらつかせる。今度こそいい席とってやるーとクラスメートが騒いでいるが私はそれどころではなかった。手嶋くんと隣の席ではなくなってしまう。そんなのいやだ。目線を隣に向けたら手嶋くんと目が合う。手嶋くんは次もいい席だといいんだけどなー、と言うが気が気ではなかった。別に彼の発言に特別な意味はないだろう。いい席とというのはここが後ろの方だからってことだ。別に私が隣にいるからってことじゃないのは重々承知している。それでも改めて実感するのは少々きついものがある。今日で手嶋くんの隣の席で授業するの最後なんだよなあ。そう思うだけで授業がまともに受けられなくなる気がした。

 案の定、授業は散々だった。その度に手嶋くんにフォローしてもらうという始末だ。謝ったら苗字が珍しいな、体調悪いのかと心配してくれた。本当のこと、手嶋くんの隣の席じゃなくなるからなんて言うことが私にできるわけもなく、昨日夜更かししちゃったからかなと誤魔化した。
 こんな私に対して手嶋くんはなんてことなさそうにくるくると滑らかにペンを回す。これをこんな近くで見られるのは今日で最後なんだろうなあ、とかいちいち感傷的になってしまう。どこまでもダメな奴だ。
 別に明日から別のクラスになるってわけでもないのにこんなことになるなんて我ながらオーバーすぎる。情けないとも思うけど自分の感情をコントロールすることもできなかった。こうしてうなだれている間も時間はどんどん進んでいく。

 私は無事ではないものの今日の授業はあっけなく終わる。ホームルームだと担任がやってきて、黒板に座席を示す図が描かれ席替えの準備はどんどん整っていく。比例してクラスメートはざわつくが、私は落ち込む一方だ。手嶋くんは相変わらずだった。どうしよう、何か言うべきなのだろうか。言葉はいくらか思い浮かぶがそれはあまりにも口にするのが恥ずかしい物ばかりで私には無理そうだった。別に手嶋くんと永遠の別れってわけでもないのだから今そういうことは言わなくてもいいのだ。でも今後この席が隣でわりかし話せていた関係が帳消しになってしまったら、その前にいっそとか頭の中がずっとぐるぐるしている。
「苗字」
 声を掛けるか否かで手嶋くんの様子を伺っていると反対に手嶋くんに声を掛けられてしまった。どうしよう、見過ぎてて気持ち悪いとか思われたのだろうか。
「ん、」
 手嶋くんは自分の机にあるノートの端っこを指さした。そこには何かが書かれているようだった。失礼してそれを覗き込むとそこには文字の羅列があった。それが何なのかはわかるのだが、うまく言葉を紡ぐことができない。
「……メアド?」
「そ、もちろんオレのだからな」
 手嶋くんのアドレス。そういえば、隣の席になってだいぶ仲良くなれたのではないかと思ってたが私は手嶋くんの連絡先を知らなかった。実は全然距離縮められてなかったんじゃとかマイナスな思考も一瞬過ぎったが今こうして示されたということはそうではないということだろう。
「……メールしていいの?」
「教えたんだから当たり前だろ」
 苗字って時々変なこと言うよな、と笑われてしまった。……私時々手嶋くんにとって変な発言をしていたのか。席替え直前になって初めて知った。まだまだ私は手嶋くんについて知らないことが多い。もっと手嶋くんのことが知りたい。
「……席離れても苗字と話したいって思ってるから」
「えっ」
 ぴしり、今の自分の状態に効果音をつけるとしたらこれだろう。もっと何か言いたいはずなのに全然言葉が出てこない。ああ、とかうう、とかどもってしまう。顔が熱くなっているのに気づいたのは手嶋くんの言葉を聞いてしばらくしてからのことだった。

 結局席替えは手嶋くんと席が離れてしまった。でも私はそれどころではなくなっていた。手嶋くんに何てメール送ればいいんだろう、とかさっきの言葉はどう受け取ればいいんだろうとか、相変わらず頭はぐちゃぐちゃで整理整頓までは程遠いのだが、それは先程までのとは異なりだいぶふわふわとしたものになっていた。

20150207